【無料記事】2016 J1ファーストステージ第6節・横浜FM戦前日会見[ミハイロ・ペトロヴィッチ監督]

ミハイロ・ペトロヴィッチ監督

 

「マリノスは手強い相手だ。昨年のアウェーゲームを思い出しても分かるように、厳しい試合を強いられている。マリノスは我々に対して特に高いモチベーションで臨んでくる。昨年のアウェーの40という大敗が我々に警告を発している。自分たちが走る、戦う。強い気持ちを持つ。そういったものを持って戦わなければ勝利を手にすることはできない。我々としては、この間の広州恒大戦のような、あれくらいの運動量、球際の強さ、規律、そして勝利への気持ちを持って戦わねばならない。ただ、この間の広州戦は非常に選手たちの運動量も球際も強い気持ちを持って戦ったが、それ故に体力的に、気持ち的にどれだけ回復して、明日対戦するマリノスに向かっていけるか。その準備ができているのかが重要だ。だからこそ、走る、戦う、強い気持ちを持つ準備のできている選手が戦うことになる。

中村俊輔選手は非常に調子が良いと見ている。あの年齢で、あれだけ走り、ボールに絡み、ゲームを作り、決定的な仕事もできる。彼に対しては、私は相手の監督でもあるが称賛の言葉を述べたい。だからこそ我々は彼を非常に警戒しなければならない。できるだけ彼をゴールから遠ざける。それを考えなければならない。彼には精度の高いFKもあるので、できるだけ味方ゴールに近いところで我々がファウルをしないことも重要だ」

 

——広州恒大戦からの調整期間は工夫されているように感じましたが、スポットで全体練習から外れていた選手のコンディションは問題ないのでしょうか。

 

「我々の戦い方では、特にサイドの選手は負荷が高い。後ろから前線まで多くの運動量を必要とするポジションだからだ。そういう意味でいえば、前節の広州戦を戦った宇賀神選手と関根選手は、よく戦ってくれたが体力的には消耗していたであろう。また柏木選手も中盤で守備から運動量多く、高い集中力を持って戦った。その結果勝利したけども、陽介はそれを喜べないくらいに、笑顔がないくらいに消耗し切ってしまった。今日の状況を見れば、全員が回復傾向にあると見ている。広州の後、今日は初めて陽介の笑顔を見たが、昨日までは笑うこともできないくらい疲れていた。その意味では全員があの試合から回復傾向にあるが、どの選手が明日のゲームで走る、戦うという我々のベースとなる部分でやれるかどうか、その見極めをしなければならない。試合が終わってみれば、もちろん誰がその状態にあったか、調子が良かったかは分かる。ただ、試合前にそれをしっかり見極めて良い状態の選手を起用し、マリノスに対して良いゲームができるようにしなければならない。広州戦は体力的な部分だけでなく、頭も消耗したゲームだ。相手の3人の外国籍選手は突出したレベルにある選手だった。そんな選手たちと対峙した時に、どうしたらチームとして抑えることができるか。そういった部分ではフィジカル的な部分だけではなく頭も使ったと思うし、その消耗がある。普段のゲーム以上に彼らが疲れているのは間違いない。ただ、その中で自分たちが回復し、次の準備ができているか。それが明日のゲームの重要なポイントになる」

 

——危険な位置でファウルしないためには、どんな守備が必要になりますでしょうか。

 

「もちろん無駄なファウル、不必要なファウルをしないことが重要だ。その場面でそのプレーが必要なのか、そのファウルが必要なのか。そこはインテリジェントに選手たちは戦わねばならない。もうひとつは、そうした危険なエリアに相手を近づけないこと。そういったことを頭に入れて、もちろん走る、戦うことは重要だけども、インテリジェントに守備をすることも重要。相手のCK、FKはストロングポイントであるだろう。そのストロングポイントを出させないために、如何に頭を使うか。それがサッカーで必要な部分になる。サッカーにおいては如何にインテリジェントであるかは選手の能力のひとつだ。広州戦では森脇、槙野、遠藤がほぼファウル無しで相手のトッププレーヤーを止めていた。そこは非常に評価していい部分、注目していい部分だと思う。彼らがファウルをしないでどのように対峙していたかは、皆さんもしっかりと見て、それが何故だったか、スポットを当てて記事を書かれるのも面白いと思う。常に選手たちは次の展開を予測して、その予測を基に対処しているから良い守備ができる。如何にチームとしてそれを行えるか。我々はゲーム形式の練習が多いが、そこで養われる部分もある。試合の中で常に選手たちに考えることを求めている。毎日同じ選手たちで同じ紅白戦をしている中で、それでもゴールは生まれるし、守れてもいる。それは何故かというと、見えないところでの駆け引きをお互いやっているからだ。展開の予測は攻撃も守備もトレーニングの中で訓練しているからこそ連動性があり、コンビネーションが生まれる。だからこそ私は、選手たちに常に周りを見て、多くの選択肢の中でどれが一番良いかを考えさせている。選択肢をひとつしか持たなければ、他にもあることを示している。そういった攻撃に対して、守備の予測も必要になる。攻撃も守備も一体となっている。

サッカーは計算式を解くことと似ている。計算式は常日頃から解く訓練をしなければ問題を解くスピードが落ちていく。それと同じように、サッカーも常に反復しないと判断のスピードが落ちる。だからこそ、我々は常に反復練習を怠らない。磐田戦での敗戦は、チームでのやるべきことが整理された。それぞれが自分の役割をこなしていて、それが継続できている。選手に求めることは継続である。その上で、コンスタントにやるべきことは重要だが、それを維持するのは大変なこと。それをできるように我々は努力しなければならない。浦和には典型的なディフェンダーがいない。全員が攻撃に関わるチームであるからこそ、それを守るのも大変である。だからこそ、その際の予測が大事だ。後ろから攻撃を組み立てる遠藤、阿部らが攻撃を始めることが多いですけども、そこから始まる攻撃を相手がどう予測していくか。それは皆が紅白戦から意識している。その点は攻撃も守備も同じだ。

 

——ペトロヴィッチ監督は明日のマリノス戦で、J1での指揮300試合目を迎えることになります。監督人生の道のり、今はどのあたりにいるのか。またミシャ戦術の表現の道のりも、今、どのあたりにいるのかを教えてください。

 

「私の監督のキャリアがどのあたりなのかは、このストックを見ればだいたい分かるのではないか(笑)。ただ、この状況の中でも浦和の方々は私のこういう状態に理解を示してくれ、とても感謝している。皆さん心配して気遣って下さいますし、この状況の中でも私が良い仕事をできるようにサポートしてくれている。皆さんのその好意に感謝しています。どのくらい、この後監督としてのキャリアを歩んでいくのかは分かりませんけども、今の気持ちは、浦和で監督のキャリアを終わらせたい。そのくらいの気持ちで仕事をしている。どれだけここで仕事をするのかは誰にも分からない。ただ、私はここで終えてもいい。その覚悟はある。私からこんな話をする必要もないが、もちろん監督のオファーはこれまでもあったし、これからも来るだろう。ただ私自身は浦和への愛、そして仕事への情熱を持って、キャリアを懸けて仕事をしている。2006年に日本へ来た時、浦和はJリーグで優勝した。そこで私が見た浦和の姿は、日本で、このような環境の中で仕事をできるのはここしかないと、浦和は日本最高峰のクラブであると。私は今、浦和で監督をしている。ここ以外の監督を引き受けるということは、私自身は日本では下に下がることになる。だからこそ、私はここでキャリアを終えてもいいという覚悟を持って仕事をしている。昨日、J1で300試合目になると教えてもらったのですが、私自身は全然知らなかった。過ぎる日々は早いもので、J1での300試合を迎えられることを嬉しく思いますし、これまで支えて頂いた方に感謝したいと思います。そしてここまで頑張ってきた自分自身も誇りに思いたい。

どれくらい自分のサッカーが完成に近づいているのかという話ですけども、私は浦和に来てからもそうですが、チームに新しいものを加えて成熟させてきた。サッカーには常にトレンドがあり、いろいろな新しいものが出てくる。そこに完成があるかと言われれば、私はまだまだ完成ではないと思う。常に我々は新しいアイディアを持って進化したいと思うし、私自身も監督として学ぶ姿勢を持ってチームを作っていきたい。私自身、選手からも学んでいて、選手からのアイディアを採用してチームに落としこむこともある。また私が持っているアイディアを選手たちに提案して、それを選手たちが納得してプレーしてくれている部分もある。それによってチームが進化しているのだと思う。監督として道のりのどの部分なのかという質問に対しては、そこに終わりはないと思う。常に学び、進化し続けなければならない。私はそれがサッカーだと思っている。私は21年間監督のキャリアを積んできたが、常に攻撃的なサッカーを志向してチームを作ってきた。魅力ある、人々を魅了するサッカーをしたいと思ってきた。その上で、21年間の仕事の中で、どのクラブに行っても、そこを離れても、人との関係は大切だと思っていました。私が離れてからも、そのチームとの関わりは、どんなクラブでも続けてきた。私が21年間やってきたスタイルは間違いなかったと今、確信している。サッカーチームの監督である前に、私はひとりの人間である。だからこそ問われるのは人間性。それをしっかり持って仕事をしなければならないと自負していますし、いつか浦和を離れる時が来るでしょうけども、何年かしてここを訪ねてきた時に、その人々と再び良い関係でいられることが大切だと思っている。それが私自身がどういう人間性で、どんな仕事をしてきたのかを表すことになる。私はもうすぐ丸10年を日本で過ごすことになりますが、ここまで長く過ごすとは思っていなかったですし、監督という職業は結果次第でどうなるか分からない仕事です。ただ。この日本という国、日本人という人々、その方々と共に暮らし、仕事してこれたことは私自身非常に感謝していて、喜ばしいことだと思っている。今、私は杖をついた状態ですけども、浦和のために頑張りたいと思っている。300試合は別として、明日は良いゲームをして、皆と戦い、勝利したいと思っています」

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