【無料掲載】日々雑感【コラム】ー駒井善成・誰のために闘うか
Text&Photo by Hidezumi SHIMAZAKI
挫折の中で
心が張り裂ける思いだった。
Jリーグ2ndステージ第4節、大宮アルディージャとの『さいたまダービー』。チームが同点に追いつかれた状況の69分に出番が回ってきた。宇賀神友弥と代わり左サイドへ入る。求められるのはサイドからの突破だ。ゴールライン深くまで侵入して味方をアシスト、もしくはゴールまで行き着く。単純明快な責務を胸に秘めてピッチに立つ。しかし、まったく前へ進めない。侵入経路を塞がれて進撃を阻まれてしまう。味方からパスを受けて1対1を迎えるも、そのチャンスをことごとくフイにしてしまう。
「あれだけ1対1があったのに……。それが自分の特長なのだから、抜き切らないと駄目。練習から、もっと良くなるように、自分自身を見つめ直さないと駄目ですね……」
日々の日課は加賀健一との1対1練習だ。全体練習が終わった後、ふたりで黙々と勝負に励み、一喜一憂する。だが、大宮戦を終えた翌週の練習は様相が異なった。彼の絶叫が周囲にこだまする。
「なんでこのプレーが大宮戦の時にできなかったんやー!」
「これだよ、これ! 大宮の俺、何やってんねん!」
悔しさに打ち震えた。納得できなかった。大宮戦でのパフォーマンスは、それほどに酷かった。
悩んだ時は自主練習に没頭する。それが少年時代から培ってきたサッカー選手としての処世術だった。壁にぶち当たったら身体を動かせばいい。浦和に加入した今季も、すぐに練習に付き合ってくれるパートナーに巡り会えた。
「加賀さんとの1対1はホントに熱くなる。加賀さんは凄く対人が強いんですよ。それは日々勝負してる俺やから分かる。加賀さんを抜けたら、間違いなく試合でも相手を抜けるって思える」
しかし大宮戦後、彼は4試合連続でベンチを温め、ピッチに立つことすらできなくなった。
思い返してみる。サイドアタッカーのライバルである宇賀神友弥、関根貴大らと比して、何が足りないのか。どのように貢献すれば良いのか。考えるほどに、プレーに悩みが滲んだ。
ヴァンフォレー甲府とのアウェー戦翌日に、柏レイソルとのトレーニングマッチが組まれていた。日立柏サッカー場は午後4時でも燦燦と陽射しが降り注ぎ、猛烈な湿度も相まって灼熱の戦場と化していた。その中で彼は立ち止まってボールを受け続け、相手と対峙して大半の勝負で負けた。
1対1で勝負することだけが己の欲求なのか。幼少時代からドリブルに価値を見出し、一心不乱に縦へ仕掛けて相手を打ち負かしてきた。スピードとタイミングを徹底的に追求し、局面で勝ることで自らの存在価値を示してきた。しかし、その能力は果たしてチームに還元できているのだろうか。独りよがりになっていないか。今季の浦和でゴールもアシストもマークできない自分が、何を誇示できるというのだろう。
普段は苦悩を表に出さない。日々の練習では嬉々とした表情を浮かべながら、京都弁で仲間を煽る。だが、傍目にもその音量が大きくなっていた。必要以上に場を盛り上げているように見える。焦燥の表れだった。
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