★無料記事/【FUKUDA’S EYE】J1第12節・鹿島アントラーズ戦レビュー(2011/5/25)

試合の全体的な印象

プレビューでも話した通り、鹿島が浦和のラインの裏を突いてきたりして、浦和にコンパクトな状況を作らせなかった。早い時間に喫した失点が、その大きな要因となっていると思う。その失点によって、勝てていないチームが更に動揺し、プレーがバラバラになってしまった。鹿島の2トップ二人が左右に流れたり引いたり、2列目の選手が裏へ出てきたり、サイドバックが高い位置を取ったりと、鹿島の動きに浦和のディフェンスは相当混乱を来していた。元々浦和の戦い方は、相手のフォワードが引いたときに、永田とスピラはしっかりとついて行くから、ディフェンスラインにギャップが出来やすい。そのギャップを、鹿島にいいように使われてしまった。

本来、コンパクトな状況の中で引いた選手に対して激しく行くのは良いのだけれど、相手の2トップが中途半端なポジションを取ったときに、コンパクトさを保てていなかったため、スピラも永田もあまり強く行けない状況だった。そこで起点を作られてしまい、中途半端にアプローチするからそこにギャップが生じてしまった。少し気になるのは、中盤の啓太、柏木、マルシオの関係性だ。

システムの図面上では、攻められた時に啓太の脇のスペースが空く、という風に言われているけど、チームとしてコンパクトネスを維持できていれば、そこにスペースは生まれないんだ。しかしコンパクトさを保てていないと、啓太が莫大なスペースを一人で守らなくてはならなくなる。浦和が陣形を保とうとする一方で、そうさせまいと鹿島は長いボールを入れてきて、少しずつ中盤にスペースが生まれてくる。そこにフォワードの選手が引いてきてボールを受けると、センターバックがついていってギャップを作られ、そこを起点として使われるという非常に厳しい展開だったと思う。

思っていた通りの試合展開になってしまって、更に早い時間帯で失点を喫し、チームはより混乱を来したと思う。全体としては、間違いなく鹿島のゲームだったと言えるだろう。3点目を取られていれば試合は終わっていたし、0-2でもかなり厳しい試合だった。逆に言えば、良く追いついたなと言える試合だし、追いついたことで逆転出来るような勢いを出せた。よく勝ち点1をもぎ取ったなと思う。

鹿島にやりたいようにやられてしまった試合

鹿島にやりたいようにやられてしまった試合だろう。失点の部分に関して言うと、左サイドの宇賀神が2失点に絡んでいて、シーズンが始まる前から言っているけど、宇賀神の守備に関しては問題があると言わざるを得ない。サイドバックはスペースを埋めたり、ボールの無い所のポジショニングだったり、前の選手を上手く使った守備という部分が出来なければならないし、それには非常に高いコミュニケーション能力が求められる。鹿島のように2トップや2列目が流動的に動いてくるチームは、どうしても受け渡しの頻度が高まるし、そういう中で上手く対応が出来ていない。元々不得手な部分でもあり早く改善しなければならないけど、今後もこういうことが続くと彼自身が自信を失ってしまい成長が遅れてしまうことになるし、思うようにプレー出来なくなる可能性があるから、心配している。

前に居る選手は原口だし、彼も守備が決して上手い選手では無いから、相手はそこを執拗に狙ってくるからね。宇賀神は攻撃的な部分に特徴のある選手で、攻撃ではアクセントを付けるなど良い働きもしている。例えば柏レイソルのワグネルのように、守備はお世辞にも上手くないけれど、攻撃では絶大な力を発揮するような選手を、チームとして活かす形があれば良いと思う。しかし、攻守両面で多くの活躍を求めると、守備の部分が足を引っ張り、宇賀神自身が守備に気を取られ、自分の特徴である攻撃も上手くいかなくなるという悪循環に陥る可能性がある。

個人的な話をすると、僕も昔代表でウイングバックをやったことがある。最初は良いんだ。いつもフリーで前向きにボールを受けられるから、攻撃に入りやすい。スペースもあるしね。しかし、段々そのポジションを理解してくると、怖さが分かってくるから守備のことがどんどん気になっていく。ビギナーズラックじゃないけど、初めのうちは攻撃しやすいから自分の特徴を出せるんだけど、そのポジションの難しさ、怖さは徐々に肌で感じるようになってくる。ボールが無いときのポジショニングは非常に重要だし、本当に難しいポジションなんだ。

また開幕前にも話をしたけど、左サイドバックには代わりがいないんだ。今後も左サイドを狙われて失点が続くようなことがあると、彼自身も自信を失い潰れてしまうことにも繋がりかねないし、かといって、とってかわる選手も居ない。浦和にとって、難しい判断を求められる問題だと思う。

1失点目の問題点

1失点目は宇賀神の体の向きが気になった。彼は利き足が右足と言うこともあり、左サイドバックなのに、左足が前に来る姿勢で守ることが多い。タッチラインを上手く使って、タッチラインを味方にして守ることがなかなか出来ないんだ。セレッソ戦でも後半にあった相手の決定機のうち一度は、体の向きが逆となり、中へ入って行かれる形から生まれた。今回も、2失点共に体の向き、ターンが逆で裏を取られてしまっていた。

1失点目は、原口とのコミュニケーションの問題、受け渡しの問題があるんだけど、後ろの選手が前の選手を上手く使わなければならないんだ。また、前にも話をしたけど、”受け渡し”というのは、前の選手が勝手に後ろの選手へマーカーを渡すというだけでは受け渡しにならない。このシーンでも、原口が鹿島の右サイドバック・西のマークを宇賀神へ渡していたけど、宇賀神は受け取っていなかった。そして西は、裏のスペースへフリーで走り込んでいる。

チームとしても、どうやって守るのかという絵がない。1失点目の場面は、相手のサイドハーフがピッチの中央へ向かって斜めに引いていき、宇賀神はその選手へアプローチに行く。そこで生じたスペースを相手のサイドバックが使うという基本的なプレーなんだけど、そこを原口と宇賀神が、人数的には合っているのだから、はっきりと二人で守らなければならない。簡単に突破されすぎてしまっている。

また、ボールホルダーの所に、プレッシャーが掛かっていないという面もある。プレッシャーが掛かっていなければ、高いラインをキープすることは出来ないし、それをしようとするならばボールホルダーへもっと強いアプローチに行かなければならない。鹿島としてみればそのギャップを上手く突いたといえるだろうけど、守備の部分では不安定なところがあるというのは否めない。啓太、柏木、マルシオの関係性も、やはり気になる。大きな問題を抱えているという気がするね。

2失点目の問題点

試合後に、永田が2失点目の場面を振り返って、スライドの部分に関して話をしていたようだけど、あのシーンでもディフェンスラインにギャップが出来ていて、ラインの前に生じたスペースにスピラが釣り出されていた。一度押し込まれて深いライン設定にさせられ、そこから引いてボールを受けた興梠が起点となり、逆サイドへ展開されている。

点を取らなければならない状況で、前の選手が守備に参加していないという側面もある。鹿島は左サイドバックのアレックスが上がってきていて、誰もついてきていなかった。この部分を見ても判る通り、全体的にチームのバランスが崩れていたと言える。スライドするというのは、最初の正しい位置に居てスライドすれば良いのだけれど、ポジションを崩されてしまっているからね。鹿島は狙ってそうしてくるし、失点の前段階から見ていくとその状況が理解出来る。

右サイドバックの西がボールを保持して上がってきたときに、原口がついてこられず、山田暢がアプローチに行き、柏木も絞ってきていた。そして2列目の選手がダイアゴナル(斜め)に中へ走り込んでいき、柏木はその選手について行っている。こうなると、本来ボランチが居るべきポジションに誰もいないという状況になった。そこからサイドを変えられ、ディフェンスラインも下がっているから、バイタルエリアに広大なスペースが生じ、そこを興梠に上手く使われてしまったのだ。点を取りにいかなければならない、という意識がチームのバランスを崩し、リスクを掛けているのだとは思うのだけれど、守備に関して非常に重要なポジショニングが、完全にバラバラにされてしまった。

浦和は一人のアンカーを置いているというイメージがあるけど、本来アンカーというポジションは、ミッドフィールドとディフェンスが作る4-4の間に居るのであって、今の浦和はそういう形にはなっていない。コンパクトな陣形を維持している4-4の間に入れて初めて、アンカーはスペースケアに威力を発揮するのであって、あれだけ間延びした陣形の中でアンカーを置いたとしても、一人では見切れないスペースを相手にしなければならなくなるから、個人的にはアンカーと呼べる形ではないと思う。

最初に失点してしまったことがバランスを崩した要因になるんだろうけど、失点シーン以外でも、上手く守り切れた形は非常に少なかった。人を見る、という意識が強すぎると思う。コンパクトさを保ちつつ人に対して激しく行くのは良いけど、間延びしても人について行ってしまうから、ポジションがあちこちに散らばってしまい、スペースがピッチ上の様々な場所に生まれてしまう。まったく埋め切れていない。並びの問題ではないけれど、僕は啓太一人ではなく、山田暢と並べて配置した方が良いと思う。今のやり方だと人に強く行く分どうしてもギャップは出来やすいから、ディフェンスラインの前にしっかりと守備を出来る選手の並べ、スペースを埋める作業をするべきではないだろうか。

ペトロが最初やろうとしていたことがまったく見えないことが、残念だ。上手くいかないこと、結果が出ないことは別に構わない。そうではなくて、当初やろうとしていたことから大きくサッカーが変わってしまい、まるで去年のサッカーに近づいていってしまっているような感じすら受ける。もし去年のようなサッカーをするならば、もっともっと全体的な活動量を増やさなければならないけど、そういう風にも見えないし、中途半端な印象が強い。

得点シーンに関して

得点は、ラッキーパンチと言える。高崎の1点目は、シュートに勢いがあって相手に当たり、コースが変わって入っている。マゾーラの2点目にしても、西の対応と曽ヶ端のポジショニングは大きな問題があったと思う。ただ、あのシーンでは得点を決めた二人とも正しい判断をしたと思うし、それ以外の判断は無かっただろう。

シュートに関して”打ってみなければわからない”というような事が言われるけど、この試合の2点に関しては、結果的に正しい方の判断が出た。ただしその後、マゾーラが退場する前に、遠目からシュートを打った場面がある。このシーンでは、高崎がフリーで待ち構えていたにもかかわらず、マゾーラはシュートを選択してしまった。何でもかんでも打てば良い、という風になってしまうのは怖いことなんだ。今回は、シュートを打ったことでゴールになっているんだけど、正しい判断を続けていかなければ確率は上がっていかない。このことは、理解しなくてはならないだろう。

一番やってはならないのは、チームが勝てていない中で、強いプレッシャーが掛かっているときに起こる判断のミスだ。勝てていないと焦りが生まれるし、浦和は普通のメンタリティではなかなかプレー出来ないチームだから、余裕を失って視野が狭くなる。そこで起きてくるのが、判断のミス。視野が狭くなると、プレーの選択が極端になってしまう。

全部無理にシュートばかり打つか、まったくシュートを打たなくなるか。両極端になっていく。求められるのは、常に正しい判断をしていくこと。2点目のマゾーラは正しい判断だったと言えるけど、”打たなければわからない、だからどんどん打て”というような方向に走るのは、非常に危険な事だ。凄く難しいことなんだけど、チーム状態が悪ければ悪いほど、極端な判断が増えていくことが多いので、選手は理解して試合に臨むべきだと思う。

現状の浦和はまさに判断が極端になっていて、その結果、事故のような形で2点入ったんだ。シュートを打つことが、すべて正しい、という訳じゃないことを理解しておく必要がある。あくまでも、ゴールの確率を高めるために、正しい判断をしていくことが重要なんだ。

事故のような形と言ったけど、あの二つのゴールは本当に素晴らしいゴールだった。あのような厳しい状況の中で、高崎のゴールが無ければそのまま試合は終わっていただろうし、高崎のゴールがあったからこそ、マゾーラの良さが出たと言える。マゾーラはあのシーンしか仕事をしていないと言えるけど、彼の持つポテンシャルの高さは十分証明できたのではないだろうか。仕掛けからシュートまでの動きは、大きな武器になるだろう。マゾーラはどの位置に居てもドリブルで仕掛けようとするから、この試合の様な高い位置に限定して起用するのならば、より力を発揮できるかも知れない。

後半、選手交代によって起きた現象

後半の立ち上がりからマゾーラと山田暢が入り、浦和はより攻撃的な姿勢を打ち出した。ただ、この交代で明らかにチームがバランスを欠いたのは事実だし、エジミウソン、マゾーラ、原口がほとんど守備に戻らない状況を作ったから、鹿島ボールの時に自陣で6対6という数的同数の場面を何度も作られていた。一つの考え方かも知れないけど、非常に危険な賭に出ていたのは間違いないと思う。これが指示によるものか選手の判断なのかは分からないけど、攻守が分断されバラバラになった印象があった。

前半も自分たちの内容が悪く、相手に何度もチャンスを作られた中で、ペトロが取った交代策は、少し嫌な状況にあると感じた。ホームだから勝ちに行かなければならないというのは当たり前の意識だけれども、ホームだろうと何が何でも勝ち点を取るために、今は守備を安定化させることが大原則だと僕は思う。守備の部分が崩壊していて、選手たちもやりたいようにやっている中で、偶然同点に追いつき、逆転するような流れにはなったけど、試合内容としてはペトロがやろうとしているサッカーとはかけ離れているような気がしてならない。

しっかりしたポジションから良い守備をする、という事に関してまったく出来ていなかったから、その部分をどう考えているのか。だんだん見えなくなってきているところが不安だ。一貫したものがあって、それでも結果が出ないというのであれば、出来なかった部分を改善していけば良い、ということになるけど、鹿島戦では、チームとして何が出来ていて何が出来ていなかったが判らないし、どこを改善して次の試合に臨もうとしているのかが解らない。

勝てないチームはそうなっていく傾向があるんだけど、まずはしっかりとした守備から入るということが重要だと思う。一人ひとりが一生懸命頑張っているのは伝わってくるけど、それがチームの力として還元されていないように見えるのが残念でならない。

2トップにすべきという意見

試合の翌日にエジが「2トップにするべきだ」というような発言をしたようだけど、これは良くない状況だ。こうしたコメントが外に漏れてくるということは、ペトロの問題もあるし、チームとして上手くマネジメント出来ておらず、相当混乱しているのだと思う。

何故そういう風になっているのかというと、上手くいかず選手たちは不安になっていて、それが不満に繋がっていく。そこで生じる不安、不満を、上手く解消できていないということだ。解消出来ないのは何故か。この世界では、勝つ事しかないんだ。勝つために、システムを変えたり選手を入れ替えたりしながら、勝っていく事しかない。結果が出ていない現状では、それが不満になる部分もあるだろうけど、ただ一つの案としては、エジが言った様に、後半の高崎を入れた2トップの方が、チームのバランスとしては良くなるのではないか、とも思う。

マルシオのポジションは別として、守備的な仕事をする中盤の選手を二人入れて、2トップにして二人の関係性で崩していくような形の方が、バランスが取れると思う。今は、不必要にバランスを崩して攻撃しているのが、凄く気になっている。当初はバランスを気にしてポジションをあまり動かさなかったのに、今は必要以上にポジションが動き、バランスが崩れてしまっている。

柏木とマルシオ、啓太の3人が悪い状況であっても、構わずサイドバックは高い位置を取るし、早い段階で浦和の選手が敵陣に入りこんでしまい、自分たちでスペースを埋めてしまっている。相手が崩す必要が無いほど、自らバランスを逸してしまっていると言えるだろう。失点が早い、勝てないということがこの状況を生み出しているのだろうし、高崎を入れて2トップにした方が、遙かに攻撃はシンプルになるしサイド攻撃も威力を増すと思う。

また、リスタートのところでも、高崎が入れば高い選手が4枚(スピラ、永田、エジ、高崎)になるので、迫力が増すと思う。高崎は自らが競り勝つだけでなく、体を投げ出して潰れるプレーもあるので、リスタートの可能性は高まるだろう。

何度も言うけど、リスタートは得点の3割~4割を占めると言われている中で、今季浦和はまだ1点も取れていない。逆に失点は半数がリスタート絡みから喫している。この部分は最も改善しやすいところでもあるし、マルシオを獲った意味を考えても、セットプレーで相手に怖さを与えるには高崎の起用は一つの考えだと思う。

リーダーシップとチームとしての戦い

現状チームを見た時に、リーダーシップを取れる選手が居ないのは事実。啓太もパフォーマンスが上がっていないしね。だから、誰かが責任を背負うというのではなく、責任を全員で分割して受けて、戦っていかなければならない。みんなが分かち合ってやっていくしかない。それでも山田暢や啓太ら経験ある選手たちは、こういう苦しい状況で出場して、チームのバランスを取って戦っていかなければならない。

11人でサッカーがやれていない、というのが大きな問題なんだ。原口が目立つのは良い事だけど、原口だけが目立っている現状は、浦和が目指している優勝という目標からはほど遠いものだ。原口はプラスアルファで、若いけどよく頑張っている、という評価であるべきなのに、彼がチームの中心になっているというような状況では苦しい。

またペトロは、外に向けて「プロとしてのプレーを見せてくれ」というような発信をしているけど、リスタートの場面では、相当意識の改善が見られる。そういう部分で選手たちが責任を果たそうというのは見えてきている。しかし、それが結果に繋がっていない。その要因は繰り返し何度でも言うけど、やはり簡単に点を与えすぎだ。サッカーはそうそう簡単に得点が入るスポーツでは無いし、力の差が点数に現れづらいスポーツだ。それが理由で、弱いチームが強いチームに勝つことが多く、それが競技としての面白さになっている。だからこそ、簡単に点を与えてはならないんだ。

浦和はプレッシャーの掛かるチームだから、失点すれば前掛かりになるし、余裕が無くなる。視野が狭まり判断のミスが生まれ、それが自信を失うことに繋がっていく。そして結果が出ないという悪循環に嵌っていく。この状況を打開するためには勝つ事しかないし、では勝つためにどうするべきなのかと、立ち止まって考えるべきだ。ここまで、7得点10失点という数字を、しっかりと理解しなくてはならない。サッカーという協議の性質上、失点を減らすことよりも、得点を増やすことの方が難しい。

リスタートのところでは何度か同じミスを繰り返したけど、そこから学びとり、明らかに改善が見えてきた。これは今後も続けていかなければならないし、あとはコミュニケーションの問題。最終ラインは折角同じメンバーでずっとやっているのだから、もっとコミュニケーションを深めていかなければならない。とにかく、後ろの選手が主導して前の選手を使わないと守備は出来ないし、自分ひとりでは守れないのだから。

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