★無料記事【FUKUDA’S EYE】トレーニングマッチ山形戦〔前編〕(2011/4/13)

TM山形戦

島崎

「山形とのトレーニングマッチは、結果としては3-0で勝ちました。トレーニングマッチなのであまり結果は関係ないですけど、ブラジル人の二人は良かったですよね」

福田

「エジミウソンとマルシオの二人は良かった。開幕戦までは、彼らの個人的な問題なのか、チームの戦い方の問題なのか、ポジションの問題なのか分からないけど、うまく機能せずに躍動することがなかった。ゴールに直結する仕事をする彼らが躍動するかどうかが、得点を増やすカギになる。この試合では、彼らのコンビネーションや距離感が非常に良い形になっていた。結果としてみると、彼らが絡んで1点目が生まれて、2点目はエジミウソンが決めた。勝敗を決めるには、彼ら二人が輝きを見せてこないことには始まらない。マルシオが輝いてくるとエジも輝くし、エジが輝けば、マルシオも輝いてくる。彼ら二人が輝いてきたことは明るい材料だ。

よく『相手の出来が悪いから点がたくさん取れた』という言い方をするけれども、どんな相手でも点を取ることが難しいということを理解してほしい。だからどんな試合であっても、点を取ることはとても重要なんだ。点を取るポジションに居る選手にとって、点を取ることは常に簡単なことでは無いし、仮に相手の力が劣っていたとしても、強く得点を意識してプレーすることが重要だ。点を取り続けることで、コンディションが上がってくることもあるので、マルシオ、エジが点を取ったということ、そして開幕戦までは一番の不安材料だった彼らが躍動して勝てたことは、チームにとって非常に明るい材料だと思う。マルシオは新しいチーム、やり方に慣れてきた。エジも身体がシャープに見えたし、彼自身もコンディションが上がってきて、やり方を消化してきたのかなと思う」

島崎

「エジミウソンは調子が悪かった時、ゴール前に張ったままで動きが少なかったですが、山形戦ではサイドに顔を出したりポジションを動かしながら仕事をしていました。それによって彼の個性が出たと思います。1点目はチームのコンセプト通りで、宇賀神がパスカットしたボールを簡単に原口へ渡し、エジミウソンがサイドのスペースへ斜めに入っていって、スルーパスを受けた。あれは彼が得意とする形。あのような形でゴールをお膳立て出来たことは良かったと思います。

彼がサイドのスペースに入ることでウイングプレーが窮屈になる可能性があるから、彼が流れた時はウイングプレーヤーが真ん中に入っていくとか、それによる関係性が生まれれば、もっと攻撃パターンが生まれると思います。今までのウイングプレーヤーが目立つ形から、ようやくバランスの取れた攻撃の形が見せられるようになりつつあるのかなと思います。マルシオは広範囲に動いていました。トップ下には、フリーマン的役割が与えられているので、この試合のように色々なところに顔を出すのは良いことだと思います。逆にトップ下だけがフリーマン的役割があって、その他はしっかりとポジションが決められているので、マルシオのコンディションが非常に重要になってくるのではないでしょうか」

福田

「サイドに流れるという言い方があったけど、ペナルティエリアの幅、40メートルくらいはトップの選手が動いていい範囲。そこから先、タッチラインまでの14メートルのエリアに入っていくと、ウイングのスペースを消し、仕掛ける選択肢を消してしまうから、そこに入るときはしっかりとした判断が必要だ。1点目のシーンでは、エジがサイドに流れたと言ってもペナルティエリアの幅でしか動いていないから、それはサイドに侵入している訳ではない。ペナルティエリアの幅の中での良い動きは、確かに増えていたと思う。

また、裏のスペースへ走れるようになったのが良いことだと思う。彼はスピードのあるタイプではないけれども、止まってクサビを受けるだけの選手ではないから、裏へのランニングをしようとする意識がチャンスに結びつき、ゴールに結びついたのは大きい。裏へのランニングが増えると、相手のラインを下げることができて、それが中盤にスペースを作ることに繋がる。そうすれば、マルシオのプレーエリアも広がってくる。こうしたランニングの質・量の向上は、エジのコンディションが上がってきたことの証明になると思う。

1点目のゴールは、チームの狙い通りだったと思う。高い位置でボールを奪って、ひとつのパスで決定的なチャンスを作り出している。そこにランニングできているということが非常に良かったと思う」

島崎

「ボールを奪ったときのポジションも良かったですね。宇賀神がボールを奪ったとき、原口は自分のスタートポジションにいて、フリーでボールを受けながら、視野を確保してボールを出せていました。エジミウソンもマルシオも、自分たちのポジションを保ちつつ、しっかりとプレスをかけてボールを取ることが出来た。しっかりとポジションを取りながら、ボールを奪うことが出来れば、その後の攻撃がスムーズになるので、ペトロさんの狙い通りだと思います」

福田

「練習試合だったせいもあるけれども、山形戦に関しては、浦和の守備が緩かったような気がする。コンパクトさがなかった。全体的に守備の意識が薄かったような感じがした。縦パスに対してもっと激しくいって、ファーストディフェンスをはっきりさせないと、他の選手がポジションが取れない。強くディフェンスに行く意識は、開幕戦までの方がはっきりしていたような気がする」

島崎

「練習ではずっと、バックラインの押し上げを徹底してやっています。自陣に押し戻された時は、FWも含めて全員が帰陣をして、お互いの距離を近くするというのがコンセプトな筈ですが、疲れのせいか、練習試合のせいか、かなり間延びをしていました。ファーストディフェンスが弱いことでクサビを入れられて、自由に展開される時間もありましたね。これは矛盾する話になりますが、ペトロさんはコンパクト性を重視する一方で、あのように前に早くボールを展開する、出入りの激しいサッカーを志向しています。こうなるとコンパクトに保つのは難しい。上下動が増えるので、やり切るには相当な体力が必要になってきます。今のレッズでは、体力的な面とメンタル面でも難しいと思います」

編集部

「山岸がボールを保持した時に、監督からは前に蹴れと指示をしているけど、永田が下りてきて彼にパスを出すシーンが見られました」

島崎

「練習でもそのようなシーンがあって、怒られていることがありました。山岸は“自分たちがビルドアップした方がチャンスになるかも知れない”と考えてショートパスを繋いだのでしょうが、監督はノーリスクの選択をしろというということでした。これについてはどちらでも良いと思うけれども、選手が判断して、そのプレーが上手くいけば監督は咎めないと思います。ペトロヴィッチ監督は、どうも敵陣に早くボールを運ぶことを、重要視しているように思えます。GKがパントキックをして、ルーズなボールを収められる屈強なプレーヤーが前線にいれば良いのだけど、現状のレッズにはそういう選手はいないんですが」

福田

「出来るだけ失点のリスクを回避したいから、ボールを遠くに運びたいということなんだろうね。ゴールキックという100%のマイボールから、長いボールを蹴ってイーブンにするという選択肢を採っているわけだから、それは失点をしたくない、という考えの表れかも知れない。勝つためには失点をしたくない、だからなるべく早く敵陣へボールを送りたいと。当然、そういうサッカーの考え方はある。なぜ繋ぐことがリスクになるかというと、“繋ぐ技術がない”と考えているんじゃないかなと思う。

キーパーからショートパスを繋ぐようなプレーをするためには、時間と技量がもっと必要だとペトロは理解しているんじゃないかな。サッカーの哲学には正解はないので、勝ち点を積み上げていくために、どんな選択肢を採っていくかという話だから。これも状況に応じてやっているのだと思うけど、出来ないなら蹴れと、プレッシャーがかかっているのに、ボールを繋ぐなと。ただ、第一選択として、バルセロナのように、CBが低い位置で受けるということではなくて、まず蹴ることがありきで、繋げれば繋ごうか、という順番であることは間違いないだろうね」

島崎

「個人的にな考えとして、ゲームをコントロールできないチームは優勝を目指せないと思います。リアクションサッカーは負けない戦術を構築するには良いかも知れませんが、勝つためのアプローチができないと思います。やるかやらないかではなく、まず大前提としてポゼッションを出来るチームでないと、優勝争いにはなかなか絡んで行けないと思います。今のサッカーは失点を減らし、負ける確率は低くなるかも知れませんが、引き分けが増えていくような感じがします」

編集部

「3点目の形は、後方からビルドアップして生まれました。サイドバックからセルヒオへ縦に入れて、そこからセルヒオが中へドリブルで入っていき、ゴールまでつながった形でした」

島崎

「あのシーンはサイドからボールを繋いで、ボールを動かしながらゴールするという一番良い形でしたけど、あの形も自らビルドアップしていかないと作りだせないんです。イーブンのボールからだと、偶発性に頼るしかない。まああの得点も、セルヒオの天然プレーから出来た形で、意図的な形ではない気がしますが。あの形が意図的に出来るようになると、良いなと思います。試合中に福さんが言っていたんですが、鹿島はあのようなサッカーを常にやっていると。斜めに走ったり、斜めに入れることを繰り返し行うことで相手を崩して、マークを外したところでゴールを狙う。それを意図的にできているか否かで、チームの今後は大きく変わってくると思います」

福田

「斜めにドリブルすることが必ずしも良いことではないし、縦に行くことが必ずしも良いことではない。状況に応じてプレーの選択は変わってくる。縦にいくこと、斜めに入ることでのメリット、デメリットもある。あの位置から斜めに入ってきて、ボールを奪われると危険な形でカウンターを食らうことになる。セルヒオがドリブルを開始した位置であれば、わざと縦を切って中に入れさせて奪う、という守備のやり方もあるから、相手の守備組織がコンパクトさを保っている時だと、一番悪い形でボールを奪われる可能性もある。

逆に、縦に行くことのメリットはボールを奪われた時に、それほど危険な形でカウンターを食らわないこと。斜めとか横に入って奪われるのは最悪の形。昔、山田がサイドバックをやっていた時がまさにそうで、あそこから斜めに入ることで、さらにボールを晒すドリブルをするから、奪われてカウンターを食らってしまうこともあった。そういうメリット、デメリットがある。セルヒオのプレーは、完全に個人能力だよね。セルヒオ一人に対してディフェンスが二人ついてきているから、山形はあそこで止められないのならば、ファールをしてでも止めるべきだった。ああいう状況を作ってしまってはいけない」

島崎

「セルヒオが斜めに走って相手をずらしても、マゾーラがフォローをしなかったら意味がないですね。ドリブルで局面を打開しスペースを作った。そのスペースに逆サイドの選手が入ってなかったら意味はないけど、たまたまフォローアップしていたから良いプレーになった。これを意図的にやることが出来れば、より良いチームになると思います」

福田

「なんで相手をずらすことが出来たのか、という話になるんだけど、この場面ではセルヒオ個人の能力でずらしているわけで、相手が一人で対応できなかったから二人目が自分のポジションを捨てて出て来たんだ。そうすると、他のどこかのポジションがが空いてくる。守備側が数的優位を作ったこういうシーンでは、一番危険性が低い、サイドのポジションが空くんだ。

ペトロがやりたいのはこういうことだと思う。サイドで人数をかけず、1対1で勝つことによって、中の選手が出てこざるを得ない状況が生まれるから、相手の陣形が崩れてフリーの選手ができる。あのシーンはまさに、セルヒオ一人で相手DF二人を相手にしている。斜めにドリブルしたから相手がずれたのではなくて、セルヒオを一人で止められず、二人がディフェンスにきて数的優位を作ったから、ずれたんだよ。相手の守備組織を崩すという意味を考えると、1対1で勝つことによって、そこで大きく戦況は大きく変わるんだよね」

島崎

「オランダのサッカーの基本コンセプトがあって、守備の時はなるべく味方選手に近づいてポジションを保ち、攻撃の時は大きく距離を取って、ポジションを保ちます。基本的にポジションを余り動かしませんが、ボールを持ったら、フリーランをしながら、味方の違うポジションに入っていくわけです。1対1で打開できれば違うポジションが空いて、オートマティックに変化をしていく。オランダサッカーの狙いは、ボールを持っている時と持っていない時のコンセプトが逆。そこを狙っているペトロさんとしても、3点目のゴールは、オランダ的な素晴らしい攻撃の構築の形だったんじゃないかと思います」

福田

「基本的には1対1をいかに作るか。だからウイングがサイドに張っている訳で、その後は1対1で勝つことが大前提なんだよ。ボールサイドの局面に人数をかけて数的優位を作るのではなくて、1対1の勝負に勝つことで数的優位を作るということ。そういう意味では、3点目は良い形だったと思う」

島崎

「レッズの選手は1対1で勝つことだけではなく、ゴールを決めることまで考えているから、タスクが難しくなっている。福さんの言うように、1対1で勝つことによって相手に数的不利が生まれますから、フリーになった選手にボールを渡せばチャンスが生まれる可能性は高い。ただ、原口君なんかは全てやり切ることばかりを考えているから、自分自身で責任を高めていることになっています」

福田

「それは判断がないっていうことでしょ。どんな場面でも状況判断をしていかなければならない。オフトはよく言っていたけど、サイドでボールを受けた時に、1対2の局面になったら必ずどこかが空いているんだと。1対1はリスクをかけて勝負をした方が良いけれども、1対2の時は、ボールを動かしたほうがいいんじゃないかと。その判断を続けていかなければならない。アタッキングサードに入って1対1の時は、勝負をしかけなければならない。サイドの選手はそれをやるためにいるわけだから。縦に中にいこうが、シュートで終わろうが、クロスで終わろうが、それは個人戦術になっていくから、そこの判断をしっかりしていけば良いんじゃないのかな」

(後編に続く)

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