「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

【コメント】トニーニョ・セレーゾ「チームやクラブだけが負けたのではない、監督の敗北でもあります」/AFCチャンピオンズリーグ2015 グループステージ FCソウル戦(2015.05.06)

■トニーニョ・セレーゾ監督(鹿島):

全体的に選手の意欲だったり勝ちたい気持ち、あるいはなにかを成し遂げたいという気持ち、チームとしての狙いに関してはできていたのではないかと思います。ポゼッションも悪くなかったし、前半、得点はできましたけど、相手がボールサイドでコンパクトになるのでもう少しサイドチェンジを多くしてそこからの崩しが多くできたのではないかと思います。あとは最後の3分の1で深さをつくり相手のDFラインを押し下げたところで、もう少し落ち着いてクロスの選択だったり、逆サイドに入ってくる選手だったり、ペナ角付近でもそうだったのだが、全部シュートではなく、もう少し落ち着きがあれば違う展開や状況をつくり出せるのに焦ってしまっていた。選手たちには言ったのですが90分試合をしなければいけないなかでマネジメントをしなければいけないし、心理的な部分で焦りすぎてしまって、自分たちから自滅することはあってはいけないと話しました。そういうところではある程度落ち着いてできたところもあったと思います。あとは、当然ながら相手の特長を考えればセットプレーがこの試合においての重要な点になるわけです。セットプレーと言うのは接触しなければなりません。そこを嫌がってか怖がってか、まだわかりませんが、ACLだけでなくJリーグにおいてもそういう失点をずっと喫しています。意識付けをしてるんですけど、ご存じのとおりこういう日程ですので細かい部分で完璧に意識付けをできたかと言えばできないところもある。前日も、前々日もセットプレーで練習したにも関わらず、そうした形で失点してしまったということは非常に残念です。この試合、相手がなにか明確に崩してチャンスをつくったかと言ったらほとんどなかったと思います。他の試合でも言いましたけど、セットプレーでやられて、セットプレーで負けてしまった。それが我々が抱えるいろんな課題のなかで、最大であり、いまできる修正のなかでも一番早くやらなければ課題です。あるいは分析すればセットプレーからの失点が一番多いので、そこを改善しなければならない、改善できる部分です。他にもまだいろいろ直さなければいけない部分、修正しなければいけない部分は多々あるのですが、明確に数字でも表れている部分はそこ。とはいえ、パスワークや狙いをやろうとした姿勢の部分では、選手たちを讃えたいなと思います。意欲に関してはよかったと思いますが、自分たちがずっと指摘され続けているセットプレーの守備と言う部分は改善していかなければいけません。 あとは前半でサッカーのルール内で、FCソウルの選手たちは球際のところをギリギリのところでやっていた。そこはハーフタイムに、もう少しそういう球際のところをちゃんと戦って欲しい、と言いました。やはり球際のところで彼らは自分の命を懸けるくらいの気持ちで戦っていた。そういった部分に関しては後半はよかったかな、改善が見られたのでいいことですが、ただ残念に思うことはセットプレーです。

――中盤はいいのですが、最後のモリーナのシュートに誰も滑らなかったように、最後の最後のところが甘いと思う。それはどうすれば直せると思っていますか?

日本は、たぶん世界とはかけ離れた文化だったり、習慣だったり、特に道徳と言う部分が守られている国であり、世界中他の国に行ってもこうした国はないと思う。その部分については非常にすばらしいことです。他の国と言うのは、貧富の差があって、一日を生きるために、あるいは生き延びるためには、自分で頭を働かせて生きていかなければなりません。水がなかったり、お金がなかったり、食べ物がなかったりするなかで、どうするのか?誰かがくれるのかといえばくれないわけであり、仕事をするかどうするかは自分で考えなければならない。それが、生活のなかにあります。選手ということを考えると、若い時から競争の世界におり7歳から10歳くらいのときには、同じ町のチームには負けてはいけないという圧力のなかで子供たちは育てられます。競争することがどういうことなのか、勝つか負けるかでどういう意味があるのか、重み、責任を小さい時からわかっています。そういう人たちと、プロになってから勝つことの意味と重要性と、意味と責任がなんなのかを知る人とでは、その8年、10年の差はたった8年かもしれないが非常に大きいです。もう一つは、争いをしない文化というか、話し合いをもって物事を解決するすばらしい日本の文化があり、強いものが勝ち弱いものが負けるということではなく、話し合いを持ちながら互いに譲歩しながら進めていく習慣もあって、接触というか極端にいえば喧嘩をしない、素手で喧嘩をしない部分もある。だから接触することも嫌がりますし、大半の日本人選手はヘディングが大嫌いではないかと思います。そうした競り合いになると自分が競らないように、身体は多少はぶつかってますけど、なるべくそうしないようにしている。いろんな部分で影響しあっているので、ビデオを見せてこうやるんだとヘディングの競り合いの技ややり方を見せても、習得できるかといえば小さいころからやっているわけではないので、急激にはできません。Jリーグにおいても、自分の身体をうまく使いながらボールをキープする選手は非常に少ない。それができるだけで、Jリーグでは目立った存在になります。接触についてはいろんな方法で説明してきました。たとえば、セットプレーのときに腕を伸ばす、自分の胸を相手の肩に当てる、それで腕が自分の前後のセンサーになって相手が前に行けば前に行くのがわかるし、後ろに行けば逆の腕に当たるので後ろに下がるのがわかります。そういうコンタクトで相手との駆け引きがどうなるのかをボールを見ながらわかるようになるし、以前、選手を指導したときには相手ばかりを見てしまってボールを見なくなった。ボールに対応できる位置にいながら失点してしまう。積み重ねるしかないし、意識してやっていくしかない。サッカーにおいてずる賢さということは、よくマリーシアと言われていることでご存じのとおり、ずる賢く駆け引きしていくことは、冒頭に言った通り、生活のなかでやっている人とやっていない人とでは歴然たる差となる。サッカーではお互いの裏を取り合いながら、ボールフェイントやステップで相手をかわす。スピードの緩急、ボールの置き方、自分の右に置くのか左に置くのか、外に置くの内に置くのか、細かく言えばいろんな部分がある。それを急にできるかと言えば、なかなか難しいと思う。ある程度、国際試合をしたり、国際経験がある者ならばあのときああいうことをやられた、というのを見たり、あるいは自分で習得したい者は相手が自分からどのようにボールを奪ったのかを見て、練習のなかでやろうとすればできるようになってきます。今日の試合で言うと、相手の左のCBに4番の選手がいるんですけど、彼は守備の部分で接触を多少嫌がるところがあるので、そこで受けてチャンスをつくろうという話をしたのですが、前半ではだいぶそういう意識のなかであのサイドから攻めたのですが、後半はちょっとそこの目的意識が薄くなってしまった。セットプレーになったときは必ず彼は上がってくるよ、192cmか194cmくらいあるんですけど、その選手が助走して跳んだら2mくらいの打点になる。そこでボールに対して正面を向いて走っている人と、ディフェンスをしている選手は横向きに走っているのでいくらジャンプ力があったとしてもその打点にはたどり着かない。では、どうするかといえば、如何にして相手を走らせずスタンディングの状態で競れるかどうか、また競るときに少しでも身体をぶつけてバランスを崩したり邪魔をしたりするような駆け引きになるわけですが、映像を見てもらえればわかるとおり、必ず彼はフォアにいく、中からフォアに行くという話をしていたのですが、映像を見るのは悔しいのですが、昌子選手がヘディングをした際に吹き飛ばされて、ボールと昌子選手がゴールに入っていきました。それだけのパワーを相手は加えてくる。身長を見て臆病になる必要はないし、要は身長差をどう埋めるのか、そういう駆け引きを身につけなければないし、身長が低いなりの術を身につけなければならない。ただ、彼らは一生懸命なにかを身につけようとしている若い選手ですし、プロの選手というのは結果が全てですので一日でも早くそれを習得できるように指導し続けたいし、映像でも見せたいし、アニメーションでも見せたい。いろんな課題があるのでそれをどのようにしていくのは実践的にもやりたいし、もう練習するしかない。意欲ややる気はあって、諦めない気持ちもあったのですが、もう1回繰り返しますけどセットプレーというところでやられてしまった。 現日本代表のハリルホジッチ監督が、自分が感じたことを率直に述べていました。その項目のひとつとして、日本人選手はコンタクトを避ける、嫌がるということを指摘していますが、それはずっと前からわかっていることです。ただ、勇気を持って言っただけであって、それは数年前からずっとわかっている事実です。18歳の高校生や22歳の大学生がプロに入って来た時、大半はヘディングの技術が身についていません。特に、競り合いのときの空中戦の技術はまったく持っていません。僕の友人でヨーロッパや南米で監督をやっている人たちと意見交換をすると、ディフェンスラインの選手、つまり4バックで並ぶサイドバック、センターバック、センターバック、サイドバックの4人は、最低183cm以上、それはチームとしてクラブとしてやらなければならないことであると、どの監督と話しをしてもその意見に到達しています。日本のサッカーもいつかはそこにたどり着きます。それまでみんなでがんばっていきましょう。あとは、サポーターに謝罪したいと思います。こういう結果になってしまって本当に申し訳ないと思います。期待してくれた多くのサポーターの応援や声援を見ていてとても感動しました。この結果になってしまったことは非常に残念に思います。チームあるいはクラブだけが敗戦したわけではなく、監督が負けてしまった。ただ、内容的には非常に良いサッカーができていたと思います。

――今日は判断力、決定力に差があったと思う。最後、7対4のチャンスがあったときにパスミスがあって決められなかった。その直後にカウンターでFCソウルが3点目を取りました。判断力、決定力について監督はどう考えていますか?

それよりもまず相手を分析してきたところで、かなり相手はボールサイドにコンパクトになるので、サイドチェンジが必要不可欠であった。今日は絶対的にやらなければいけない持っている武器の一つであって、それをやっていなかった。そのなかでもサイドチェンジというか、ボールを持った人がどこの位置にボールを止めるのか、その選手の視野の広さや判断力にもなってくるし、相手の間合いなどいろんな部分が絡んでくるのだが、ただサイドチェンジをしなかったことが致命的になった。今回は、チャンスをそれほど多くはなかったが昔からサッカーをやっていれば単純なことであって、右から始まったものは左で終わる、左から始まったものは右で終わる。もうシンプルなものです。難しく考えれば難しくなるので、僕はサイドチェンジをやらなかったことが自分たちの最大の過ち、判断としてサイドチェンジをしなかったことが残念に思います。 相手に敬意を表したうえで言わせてもらうと、3点目を取られる前も相手を押していた。ほとんど自分たちのミスから失点をしている。特別になにかをやられた感覚はないし、たぶん選手たちもないと思います。ただ、セットプレーから2失点したらなかなか厳しいと思います。

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