「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

長編ドキュメンタリー「FOOTBALL DREAM 鹿島アントラーズの栄光と苦悩」に込めた思い/【コラム】

スポーツチームの裏側を映し出すドキュメンタリーは、日韓ワールドカップの日本代表を追った岩井俊二監督の『六月の勝利の歌を忘れない』から、マンチェスターシティなどプレミア勢の舞台裏を描いたAmazonのALL or NOTHINGまで、普段は見られない舞台裏を知ることができ人気が高い。

ただ、スポーツチームが勝利を目指す組織である以上、どうしても作品の結末に勝利や成功が用意されているとカタルシスを得やすい構造となる。逆に、苦しいシーズンが続くなかでドキュメンタリー作品をつくることはリスクを伴う。満足感を演出しずらいからだ。

ここ数年、苦しいシーズンが続く鹿島が敢えてその姿を公表しようとしている。長編ドキュメンタリーシリーズ作品「FOOTBALL DREAM 鹿島アントラーズの栄光と苦悩」が完成し、2月10日(木)より動画配信サービス U-NEXT で配信を開始する。

 

 

プロジェクトを中心的に進めてきたのは、株式会社鹿島アントラーズFCの神戸佑介(かんべ・ゆうすけ)だ。

「アントラーズは創設から今まで非常にドラマティックなクラブ。その歴史を辿ると、どのストーリーもものすごく強い。アントラーズの本質を再定義することで、鹿島をよく知るファンだけでなく、もっと広く、多くの人に知ってもらえる作品にしたかった」

2020年、企画を立てた神戸は、社長の小泉文明をはじめとした経営陣に直談判する。クラブ創設30周年を迎え、新たな方向に踏み出すためにも鹿島アントラーズを再定義するドキュメンタリー作品を作りたいこと。そのためには、クラブに都合のいい場面だけで編集し、見せたくないものはカットしてしまう中途半端なドキュメンタリーにはしたくないこと。すでにマンチェスターCやトットナムが質の高いドキュメンタリーを制作しており、生半可なものでは視聴者を満足させられないこと。

「アントラーズが本丸を隠して、そこに触れないものを作っても誰も見ません。少なくとも中途半端に蓋をしたドキュメンタリーなら僕は見ないです」

神戸の熱い思いに小泉も理解を示し、メルカリという映像コンテンツに理解がある会社であることもいい方向に働く。同年7月にプロジェクトが承認され、全社で進める体制が作られた。強化部から選手にも説明が行われ、チームの深い位置までカメラが入る前代未聞のプロジェクトが開始された。

 

もしかしたら、鹿島サポーターであればあるほど見るのが辛い場面があるかもしれない。ここ数年は、辛い経験の連続だった。ホームゲームでは、選手寮でのミーティングからスタートし、スタジアムへ移り、ロッカールームでの様子まで、現チームの裏側がそのまま映し出されている。選手たちが苦悩する様子はもちろん、中には強化部の満さんや吉岡さんが思い悩む場面が収められていると聞く。ザーゴ解任が決定的になった浦和戦のロッカールームにも当然カメラは入っている。ザーゴと相馬さんの間で行われたやりとりなども見ることができるかもしれない。そのザーゴについては解任が申し渡されたあと、苦しい胸の内を吐露する貴重なインタビューも収録されている。

カメラが入るようになってから内田篤人、曽ヶ端準の2名が引退を表明した。内田についてはシーズン途中の引退だった。その裏側の様子もカメラに収まっている。ショックを受ける選手たちの空気感も伝わってくるだろう。

 

もちろん、作品内で描かれているのは現在の様子だけではない。20冠のタイトルを獲得してきた鹿島だが、その歴史は順風満帆だった訳ではなく、むしろ、数多くの試練を乗り越えてきたことにこそ鹿島の本質がある。30年に渡るその歩みを振り返るため100人に迫る人物から証言を集めた。その中には、鹿島で活躍した選手だけでなく、住金時代の人たちやライバルチームの選手も含まれている。

 

チームはいま、新しい鹿島をつくることにチャレンジしている。この作品も意志としては同じ。過去の栄光を振り返りつつ、新しい挑戦に踏み出す姿を伝えている。クラブ創設30周年の記念作品としてスタートしたプロジェクトは、撮影が伸びに伸びて2022シーズン始動日まで撮影を続けていた。

膨大な時間を費やした映像記録がぎゅっと凝縮されている。その熱量を早く画面から浴びてみたい。

 

 

FOOTBALL DREAM 鹿島アントラーズの栄光と苦悩 特設サイト

https://www.antlers.co.jp/lp/documentary_footballdream

 

 

 

 

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