【島崎英純】2023Jリーグ第17節/横浜FCvs浦和レッズ・試合レビュー『著しい出力不足。敵地で不甲斐なきドロー』

©Yuichiro Okinaga

構造上の欠陥

 蒸し暑い横浜での一戦となった今試合、浦和レッズのマチェイ・スコルジャ監督は現状のベストメンバーを送り込んだ。また、ベンチ入りさせた選手は4日前の天皇杯2回戦・関西大学戦で延長戦までもつれ込んだメンバーを中心に、出場時間が限定された者、もしくは一定のプレーパフォーマンスを発揮できた者がチョイスされたのではないか。

 関西大学戦はバックアップ中心のチーム編成の中で思うようなチーム力を標榜できなかった。自陣からのビルドアップ、敵陣での攻撃構築、そして有事の際のディフェンスブロック形成など、ここまで懇切丁寧に浸透させてきたチームスタイルを十全に表現できなかった点は残念で、今後の戦いに少なからず暗い影を落とした感がある。

それだけに、公式戦7連戦の締めを飾る今節のリーグ戦、横浜FCとの試合は確実に結果を得たいゲームだった。そして出場機会を得た選手たちも、それなりの気概を備えて今試合に臨んだようにも思う。

横浜FCの四方田修平監督は今季J1で厳しい戦いを強いられ、果敢に採用した4-2-3-1システムを改めて昨季J2で2位に入ったときの基本システムである3-4-2-1へ回帰してリーグ戦連勝を飾るなどしてリカバリーしてきた。ただ直近のリーグ戦は再び連敗を喫していて、しかも指揮官が新型コロナウイルスに罹患し、所属選手もコンディション不良に陥るなどの厳しい台所事情を抱えていた。しかし今節の浦和戦に際しては統率されたディフェンスブロックからの素早い攻守転換、1トップ&2シャドーの巧みなプレーメカニズムを駆使した相手陣内バイタルエリア付近での崩しなどを随所に発揮して前半に関してはほぼ互角の戦いを展開した。

また、横浜FCは1トップ+2シャドーが果敢に前線プレスを仕掛けてきた。これに対して浦和はGK西川周作、CBアレクサンダー・ショルツ&マリウス・ホイブラーテン、そしてMF岩尾憲の4人が巧みなスクエアを形成して慎重なパスワークを実践した。そしてサイドで構えるSB酒井宏樹&明本考浩、MF大久保智明&関根貴大はセーフティなプレー選択ながらも敵陣へボールを運ぶことができていた。これはひとえに岩尾、伊藤敦樹、安居海渡、興梠慎三らのミドルゾーンに陣取る選手の秀逸なポジショニングに依る部分が大きい。単純な縦方向だけなく横パス、ダイアゴナルパスなどの複数パス選択肢を与える彼らのポジショニングは、虎視眈々とボール奪取を目論む横浜FCのディフェンスワークを回避する効果的な局面を生み出していた。

一方で、アタッキングサードにおける浦和の攻撃メカニズムは停滞感が漂っていた、左サイドがほぼ関根貴大の単騎打開になったのは明本考浩の攻撃関与が少なかった影響があっっかもしれない。普段の明本ならば積極的に相手バックライン裏へ抜け出す挙動を繰り返し、それに呼応した関根が多角的なプレー選択肢の中からシュート、あるいはパスを繰り出せていた。しかし、相手バックラインを混乱させる明本の動きが希薄だったことで、関根は単独での仕掛けを終始余儀なくされていた印象がある。

右サイドの攻撃構築はSB酒井宏樹、MF伊藤敦樹、MF大久保智明のトライアングルが中心になる。酒井は相変わらず好戦的な攻め上がりを見せ、伊藤も疲労を滲ませながらも相手陣内深くのハーフレーンを取ろうとしていた。その結果、一定の確率で大久保が相手ディフェンスラインをブレイクしてシュートまで持ち込めるシーンはあった。しかし、その大久保のフィニッシュワークは相変わらず稚拙で、何の可能性も感じられないシュートで攻撃を完結させる行為を繰り返した。

興梠が相手ペナルティエリア内での仕事に専念できないのは一つの問題ではある。ただ、それでも少なからずチームはクロスを上げるタイミングがあったし、興梠自身も相応の動きで相手マーカーを引き剥がす努力を重ねていた。しかし今の浦和はアシスト役となる出し手のプレー精度が著しく低い。相手プレッシャーをそれほど受けずに放たれるクロスはことごとく味方へ到達せず、さほど身長が高くない相手DF網に簡単に弾き返されてしまった。

フィニッシュワークの拙さがチーム戦術の欠陥に起因しているとは思わない。先述したようにスコルジャ監督が求めるアタッキングスキームにはそれなりの論旨があるし、少ないながらも決定機寸前まで持ち込めている。最終局面の精度が高まらないのは、ここまで来ると、選手個々のフィジカルと技術が不足していると評価するしかない。さほどハイインテンシティではない相手守備を前にしても枠に収まらないシュートが飛ぶのを見るにつけ、怒りではなく諦念の思いがよぎってしまうのは寂しい。

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