【無料掲載】日々雑感【コラム】ー梅崎司・心からのエールを

雌伏の中で、再び立ち上がるために

 2016シーズン。Jリーグ2ndステージ第8節・名古屋グランパス戦で途中出場し、チームは20で勝利した。だが、それ以降、チームは同第9節・川崎フロンターレ戦、同第10節・ヴィッセル神戸戦を落として連敗を喫した。その中で彼は試合終了までベンチに座り、ピッチに立つ機会を与えられなかった。

槙野智章が、今季の新人で、なかなかベンチ入りすら果たせない伊藤涼太郎を諭すように言った。

「涼太郎、知ってるか? 梅ちゃんは埼玉スタジアムのナイターゲームで出場機会が無かった時、そのまま大原グラウンドへ帰ってきて、夜中に何本も坂道ダッシュをしているんだよ。俺も、それをチームスタッフから聞いた。奮い立った。試合に出場している俺らは、そんな選手の想いも含めて、精魂込めて戦わなきゃならない。涼太郎も今、そういう選手と日々切磋琢磨していることを理解した方がいいよ」

努力をひけらかさない。精進は全てチームとサポーターと、己のためにある。

「当然じゃないですか。僕は雑草なんだから、誰かを追い抜くには、それ以上の努力をしなきゃならない。腐ったら、そこでおしまいになる。僕はそれを、これまでのサッカー人生から学んできたんです。そして必ず報われるとも信じてきた。その想いはずっと変わらない」

2016年8月29日。神戸遠征で練習場所を提供してくれたJ2・セレッソ大阪のトレーニング施設、『セレッソ大阪スポーツクラブ舞洲』で彼が走っている。台風10号の影響で関西地方も激しい豪雨が吹き荒れていた。しかし彼はジョギングを止めない。自らに課した距離を走り切ると、フッと息を吐いてゆっくりとクラブハウスへ戻っていく。ジャージが雨で濡れている。彼はこちらの存在に気づくと、笑顔を浮かべて茶目っ気たっぷりに左目でウインクした。

『大丈夫。次は頑張るよ』。

無言の目配せが、そう言っていた。

2016年8月31日。YBCルヴァンカップ準々決勝第1戦。先発出場を果たし、ノエビアスタジアム神戸でヴィッセル神戸と対峙した。だがプレーパフォーマンスが上がらない。躍動感がなく、対面する相手をブレイクできない。試合勘の問題なのか、コンディションを落としているのか。試合後に本人と話してみよう。そう思った矢先、試合終了間際のピッチで彼が倒れ、立つこともできずに担架で運ばれていった。松葉杖を突いてスタジアムを後にする。不安が渦巻く。診断の結果は左膝前十字靭帯損傷。全治は手術後に判明するという。7年前の負傷とは逆足の膝だったーー。

あれほどの辛苦を乗り越えてきたのに、何故また彼が試練を負うのか。どんなに歯を食いしばっても、思いが溢れてしまう。苦難の末に復活の道程を歩んだ彼の姿を目撃してきた者たちは、等しく心を痛めているだろう。

今は奮起を促すことなどできない。それでも、かつて彼が吐露した言葉を道標にしたい。

「僕はエリートじゃない。これまでのサッカー人生も平らじゃなかった。例えば浦和に入ってからは、ケガをしてから得られたものがある。

仲間と何かを成し遂げる。仲間とはチームメイトやコーチングスタッフだけじゃないですよ。もちろんサポーターも一緒に。彼ら仲間とともに目標へ突き進む。こんな有意義なことって、なかなかないでしょう? 浦和レッズサポーターは僕の辿ってきた道のりも理解してくれた上で声援を送ってくれている。僕はそれを今、ヒシヒシと感じています。『みんなの思いはしっかりと受け止めているよ』って。以前の僕は個人競技の方がいいなと思う時期があった。ボクシングなどは自分の力だけが頼りで、優劣は自分次第でつけられる。でも今は思いが変わりました。やっぱりサッカーしかないでしょって。チームメイトとサポーターと一緒に戦って何かを成し遂げるなんて、僕にとって最高の経験です。

僕は、僕のチャントをサポーターが歌ってくれる時、いつも泣きそうになりながら、『絶対に頑張る! 勝利する!』という思いを奮い立たせている。僕はいつも、皆さんの声援に支えられながらプレーしているんです」

梅崎司に心からのエールを送る。君の生き様を皆が見ている。

必ず帰ってくる。ずっと待っている。

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