【島崎英純】2015Jリーグ2ndステージ第11節・清水戦レビュー(2015/9/20)

マッチアップ勝負に持ち込んだ陣形

浦和レッズのシステムが特殊な形に見えたかもしれないが、チームコンセプトの骨子はヤマザキナビスコカップ準々決勝第2戦・アルビレックス新潟戦の時と一緒だ。あのゲームでも、浦和は4─4─2の相手に対して前からマンマーク気味に嵌めていく積極的守備を実践して相手を追い込もうとした。残念ながら新潟戦の前半は付け焼き刃的な戦略が仇となって状況が好転しなかったが、それでもチームとしてはある種の手応えを感じていたようだ。それは4─4─2や4─2─3─1などでギャップを生み出す相手に対する明確な対処策である。

田坂和昭監督率いる清水エスパルスのシステムはオーソドックスな4─4─2だが、この陣形が3─4─2─1の浦和にとってはスペースギャップを生む形となる。サンフレッチェ広島時代や2012シーズン、2013シーズンの浦和はこのギャップを自ら突くという論旨で相手を凌駕したが、相手よりも個人能力で優れるチームとな近年の浦和では逆にスペースギャップを相手が利用し、浦和が劣勢に回ることが増えた。

象徴的だったのがJリーグ2ndステージ第9節の横浜F・マリノス戦やヤマザキナビスコカップ準々決勝第1戦の新潟戦における大敗だろう。横浜戦では相手攻撃陣のダイアゴナルランに混乱し、新潟戦では相手2トップのプレス&チャージ、そして高速カウンターによるバックライン裏への抜け出しによって浦和守備網が決壊した。

そこでミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、相手がどんなシステムでもマッチアップ勝負に持ち込む陣形を求めた。それが新潟戦、今回の清水戦での戦略である。

興梠慎三によると、攻撃陣の陣形は「2トップ、2シャドーみたいな形」だったそうだ。それは浦和の4枚の攻撃陣が相手センターバックとダブルボランチを監視したからに他ならない。興梠は「今日は守備に関して、試合前にかなり言われた」とのことで、前線からプレス&チャージを仕掛けるために、あえて相手の陣形に合わせてマンマーク気味のポジションを取ったということだ。

その戦略は中盤以降の陣形にも波及している。相手のサイドバックには右・関根貴大、左・梅崎司が付く。そして相手サイドアタッカーには右・森脇良太、左・宇賀神友弥。相手2トップは当然那須大亮と阿部勇樹が担当する。それぞれの選手がそれぞれの受け持ちマーカーに付いた結果、浦和の陣形は4─4─2のような形になった。図で示すと、こうである。

スクリーンショット 2015-09-20 13.48.52

正確に記するともう少しアバウトなのだが、ほぼこの形だ。私見では柏木陽介がアンカーの4─1─4─1かとも思ったのだが、関根に聞くと、「武藤くんが後ろに下がって、阿部さんが最後尾に落ちる形」というので、こうなのだろう。

そもそも、今回の浦和は明確に数字で示すシステムを形成したわけではない。あくまでも相手に合わせた結果、そのような陣形になっただけだ。また、相手に合わせることを消極的に捉えてもいない。敵陣からボールを刈り取る能動的守備によって相手を圧倒し、ゲームをコントロールする意欲があったのだ。

浦和の積極的、能動的守備は事態を好転させた。そもそも清水は浦和がいつもとは異なる隊形で臨んだことで面食らってしまったようだ。彼らは自陣でボール保持してもパスコースが見つからずにボールロストを繰り返した。それは浦和が人数を合わせて前から嵌める守備を実践しているからであり、清水はそれに気づくまで長い時間を要した。また浦和は相手ボールを奪ってからの攻撃へのトランジションで迫力を見せた。興梠が語る。

「最初から2トップ+2シャドー(関根の見立てではダブルボランチ)で、4人で一気に攻守転換できるので、攻撃の枚数が増えていろいろな形を生み出せた」

興梠の言う4人の中央攻撃陣に加えて、浦和はサイドアタッカーが相手サイドバックを高い位置で観察して優位性を築いた。特に効果を発揮したのが右サイドの関根の動きである。これまでの関根ならば後方スペースに後ろ髪を引かれながら攻め上がるところだが、今回は擬似サイドバックの森脇が後ろに控えていたことで躊躇なく敵陣へ打って出てサイドを切り裂くことができた。

また清水バックラインの守備戦術も浦和のサイド攻略が生きる動機となった。清水は横浜FMと同様に中央エリアを締めてサイドスペースを捨て、浦和のサイドクロスをある程度許容していた。確かに第9節の横浜FMは屈強なセンターバックを軸に浦和のサイドアタックをゴール前で次々に跳ね返して無効化した。しかし今回の浦和は関根が仕掛ける怒涛の縦突破と高速クロス、そして人数を掛けた中央への入り込みで清水守備網を完全攻略した。これは横浜FM戦と清水戦とで、浦和のチーム戦略が明確に異なったことが起因している。

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