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【トピックス】「山形の誇りを背負う」新たなフォーマルウェア 発表会見

モンテディオ山形の新たなチームフォーマルウェアのサプライヤー締結が発表され、4月3日、山形市のQ1でお披露目された。プロデュースはマーマレーション株式会社のレーベル「illbe(アイルビー)」で、ディレクターを務めたのはモンテディオで08〜13年にプレーした廣瀬智靖さん。ウェアは今シーズンの公式戦をはじめとするクラブ公式イベントで選手、スタッフが着用する。

今回の登壇者6名がそろってのショット。右から青文テキスタイル・寺島規人さん、廣瀬智靖さん、松本怜大クラブコミュニケーター、山田拓巳選手、米富繊維・大江健さん、モンテディオ山形・相田健太郎社長。偶然か、みんな左手が上だ。

今回製作されたのはジャケット、ニットベスト、パンツの3点。

ジャケットは企画・製作がillbe、生地開発が青文テキスタイル株式会社(米沢市)。伝統産業の米沢織を生地に使用したストレッチ性のネイビーブレザーで、カジュアルな場面でも映えそう。
「強力な糸の縦糸を使用しています。その縦糸を横使いにして縫製をしていただくということでこの製品が出来上がったということです。もうひとつの特徴は、横糸にキュプラという糸とペットボトルの材料となる再生ポリエステルを切り替えて作っております。機能性もあり、環境にも配慮した素材になっているんじゃないかなと思っています」(青文テキスタイル代表取締役 寺島規人さん)

山田選手がジャケットを脱ぐと、中は白Tシャツにニットベストの組み合わせ。会見会場には萬國珈琲が先月発売したオリジナル商品「モンテディオブレンド」などが並べられ、参加者や取材者に振る舞われた。コーヒーを飲む姿もサマになっている。

ニットベストは企画・製作が米富繊維(山辺町)。選手は青、スタッフは紺を着用するとのこと。強い撚りのウェーブコットンを限界まで詰め、丈夫な素材に仕上げられているが、触ってもやさしい感じだ。
「素材はコットン100%になります。弊社のオリジナルブランドで、プルオーバーとかカーディガンとか毎年非常に人気がある素材で、パッと見、ふつうのセーターに見えるんですが、綿の糸に非常に強い撚りで作ってあって、それを限界まで絞めて編んでるんですね。セーターとかニットとかは洗うのが難しい。ニット産地の地元の方でも『セーターは扱いにくい』という方が多いと思うんですが、この素材は非常にしっかり編み込んであるので、ご家庭で手洗いしても全然縮んだりせず、洗濯が簡単にできるような作りにしています。この素材は弊社のブランドのなかでも、夏にも着用できて、洗濯も容易で、年間を通していつでも着ることができて、汗をかいても手入れがしやすいもの。かつ、丈夫であることを踏まえて、この差剤がいいのではと決定しました」(米富繊維代表取締役 大江健さん)

パンツの企画・製作はillbe。イージーパンツ仕様で素材もストレッチ素材を使用。シルエットがすっきりかっこいいだけでなく、長距離の移動でもラクに過ごせそう。
「ウエストがゴムになってるパターンで紐が付いていて、形はヒップ周りがちょっとゆとりがありながら、膝から下は少し細身になっていて、アスリートの方が好むようなパンツを開発いたしました」(廣瀬さん)

ウェアをディレクションした廣瀬さん(右端)が製品の説明を行っているところにモデルの2人が登場。あまりの着心地のよさに「毎日着ます!」と言った松本CCに廣瀬さんがすかさず「毎日はやめてください」とツッコんでいた。

今回の製品に込めた思いを、廣瀬さんはこう説明する。
「自分自身、サッカー選手をやめてアパレル関係に入って販売をしました。そのなかで、米沢織の製品とか山形のニットを実際にお客様に販売しましたが、やっぱり山形の物づくりはすごいんだと思いました。
選手時代はじつはあまりそういうことは知らなくて、アパレル業界に行ってわかったことなんです。選手もそうですし、クラブもそうですし、数多くの人にもっと知ってほしかった。『山形の物づくりってこんなすごいんだよ』ということを知って欲しかったというのがありました」

その思いは相田社長同じだ。
「山形県は繊維業が盛んな地域で、たくさんいいものを作っていらっしゃいますし、そういったものをもっといろんな方に知っていただく機会が多くなればいいなと思いました。
我々は地域の皆さんの思いだったり、作っている誇りだったり、そういったものを背負って遠征に行けるとよりチームとしてもいいと思っていますし、微々たることなんですけれども、県外、海外の人たちに伝えることができるひとつのやり方なのかなと思い、今回(3社に)にご相談をさせていただき、今回の形になった次第です」

モデルとしてウェアを着用して登場したのは、松本怜大クラブコミュニケーターと山田拓巳選手。着心地や印象についてこう話している。

松本CC
「最高です。僕は引退してからジャケットを着る機会が多いんですけど、このジャケットはすごいストレッチも効いてて、伸縮性もあって、すごい着心地がいいので、毎日着ます!」

山田選手
「僕も個人的にスーツスタイルだったり、ジャケットスタイルは好きなほうなんですけど、日頃ジャージを着る機会が多くて、なかなかそこまでおめかしして出かけることもないので。ただ今回、アウェイで移動時がメインになると思いますけど、そういうときのこういうスタイルで移動できて袖を通せるというのは、個人的にもすごいうれしいですし、その移動ひとつにしても、見られる立場ですし、かっこいいに越したことはないと思うので、これからアウェイの移動もすごい楽しみですね」

チームが連敗中の発表会見となったが、「チームが厳しい状況で元気がないかもしれないですけど、これを機にまたリフレッシュしていただいて、勝ち星を積み上げてJ1に行っていただきたいなと思っています」
選手経験のある廣瀬さんらしいエールだった。

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廣瀬さん曰く、「自分がサッカー界からアパレル業界に入ったときに、一番最初に着たのがネイビーブレザーで、アパレル界では『ネイビーブレザーをまず着こなせないと、ほかのものを着ちゃダメ』みたいな風習がある」と紹介していた。松本CCと山田選手はどうやら合格?

「山形を繋ぐ。」物語はこうして織られた

「この取り組みを進めるなかで、モンテさんもそうですし、米富(繊維)さんもそうですし、青文(テキスタイル)さんもそうですし、意外と横のつながりがあまりなかったというところがあって、今回取り組むきっかけになればいいかなと思いました」

今回生まれたウェアのセットは、それまで接点が多くなかったクラブや企業がコラボする形で実現している。そのきっかけを源流まで遡ると、相田健太郎社長の体験があった。

「ほかの試合でアウェイにお伺いすることも多々ありますが、徳島にお伺いしたときに、徳島のクラブが移動しているときに着ていたウェアが、藍染で作ってまして、『地元でやってる方がいらっしゃって、それを使ってます』というお話があって、もう純粋に羨ましいなと思った次第です」

昨年のアウェイ徳島戦は4月27日。小西雄大選手が古巣相手に決勝ゴールを決め、モンテディオが1-0で勝利した試合だ。廣瀬さんにとっても古巣の徳島戦がきっかけになったのはなんとも不思議な巡り合わせだ。相田社長の「羨ましい」が具体的に動き出した経緯は、廣瀬さんの説明から。

「昨年の夏頃、モンテディオの相田さん、そして奥山さん(マーケティング部部長)から話をいただいて、『山形で何か作ることができないか』ということでお話をいただきました。そのなかで、どんなスタイルにしようかなというところで考えたんですけど、チームスーツをせっかく着るんだったら、何か意味を持ったものを選手やクラブの方に着ていただきたいということでスタイルを考えました」

それからしばらく経った昨年の11月、相田社長が青文テキスタルに直接足を運び、ジャケットを作りたい意向を伝えたという。そこでは具体的な生地の選定はなかったが、翌々週、今度は廣瀬さんがやって来た。

「もともと、うちの織物部隊はストレッチのジャガードを非常に得意としておりまして、それまではレディースのボトムであるとか、ゴルフパンツであるとか、かなり実績のある商材を持っておりました。ですが、なぜかジャケットというのがいままでなかったんですね。ということで、どうしたものかなと思っていたら、今日同席しております弊社の井上という者が密かにですね、メンズのジャケットを作りたいということで陰でコソコソ作っていたようなんですけれども(笑)。廣瀬さんがお見えになったときに、『これどうですか?』とプレゼンさせていただいたと。そうしたら、廣瀬さんが『これだ』と簡単に生地を決めて、『こんな簡単でいいの?』と思った」とトントン拍子に話が進んだ様子。

密かにジャケット生地を作っていたという織物事業部 企画営業課の井上純一さんは、「いずれ何かのジャケット素材に使いたいなと。未完成だったんですけど、ちょっと眠らせてたみたいな感じでした。まさかこんな形でという感じでした」と述懐する。

寺島さんは、「まずは相田社長の『米沢織を使いたいんだ』という思いをいただいて、弊社の井上が『メンズのジャケットを作りたい』という思いがあって、廣瀬さんの『これだ!』という閃きがあって、そういうふうな思いや閃きが凝縮されたのがこういう製品になったと私は思っています」と話す。

2008年高卒加入同期の仲良し3人組のうちの2人。Jリーグデビューはドリブラーの廣瀬智靖さんがもっとも早く、山田拓巳選手は最後だったが、その山田選手は山形一筋16年目。こんなにコラボが実現するとは、当時誰も想像していなかったはず。

廣瀬さんがプロサッカー選手のキャリアを終えて最初に勤めたセレクトショップが「トゥモローランド」。そこに以前勤めていたのが、米富繊維の大江健さんだった。2人の在籍時期は重なっていなかったが、山形県内の知人を介して知り合った2人はその後、交流を続けて今回のコラボレーションにつながっていった経緯がある。大江さんにも、

「それまではオリジナルブランドを展開して12年ぐらいになるんですけども、山形県外ではそれなりに知名度が上がってきて、海外で展開したりとかいろいろやってきたんですが、山形の本社工場は山辺町にあって、意外に地域の人に、我々の商品に触れてもらう機会がない」

創業70年の昨年、本社工場内に直営店をオープンしたのも、地元の人たちに商品を知ってもらいたいとの理由からだった。
「お店ができたあたりから、ゆくゆくは地域の企業や学校、スポーツチームと何かご一緒できたら、山辺町のニット産業をもっと県内の方にも知っていただけるんじゃないかなと思っていたときに、廣瀬さんと出会うことができて、そこから話は結構スムーズに進行しました。弊社も地域の企業で、大半は山形県出身の方でこの土地で物を作っていて、こういった形で地元のスポーツチームを企業としてサポートできることをうれしく思っていますし、これを機会に、たくさんの方に、山形には繊維産業がニット産業以外にもたくさん根付いていますので、それを知っていただけるきっかけになれば有意義な取り組みになるのではないかと思っています」

廣瀬さんのディレクターとしての仕事は、「純粋に物づくりがすごく盛んなところなので、クラブの人、そして山形の方たちに着てほしかった。サッカーに興味がない方たちには、山形にはモンディオ山形という素晴らしいサッカークラブがあるんだよというのも同時に知っていただきたかったなというのがあって、『山形を繋ぐ。』というテーマにさせていただきました。その役割を自分が担えることが本当にうれしく思いますし、このチャンスをいただいたモンテディオの相田さん、そして担当の奥山さんには本当に感謝をしています」

今回、縦糸と横糸が交わるように、さまざまな条件が重なって新しいウェアができ上がった。これを選手やスタッフが着用して外に出ていくことで新たな化学反応が広がっていくのはこれからになる。

(文=佐藤 円、写真=嶋 守生)

 

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