Dio-maga(ディオマガ)

【頼コラム】岩政大樹・著『PITCH LEVEL』を読んだ

ほかにも「これは詰まるところ、木山監督があの試合の後に言ってたアレと同じことだな」と思うようなこともチラホラ。かなり普遍的なことが書いてあるので、読むことが好きなディオマガ読者は楽しめるはずだ。そうそう、それと、岩政選手の中でものすごくインパクトと意味のある試合として繰り返し語られる試合がある。鹿島が連覇を果たした2008年のホーム最終、ジュビロ磐田戦だ。アディショナルタイムに岩政選手のヘディングで決勝点をもぎ取り、最終節での優勝決定につなげた。この時のゴールをアシストしたのが、山形に足跡を残したヒーローの一人でもある増田誓志選手(清水)だ。

蛇足ながらこの試合は個人的にも思い出深い。劇的な好ゲームを最高の雰囲気のカシマスタジアムで見た。そして試合後にふと見上げると、陽が傾きかけた空に大きな虹がかかっていたのである。思わず「Over the Rainbow……もしかして吉兆!?」と心が弾んだ。なぜなら、これは2008年11月29日のこと。私はこの試合の後、仙台には戻らず東京に移動して一泊し、翌朝愛媛へ飛んだ。そう、翌日はJ2第44節愛媛vs山形戦。虹の向こうには、山形の初昇格という大きな喜びが待っていた。

話が逸れた。本心を言えば、本書に書かれていた内容にもっともっと言及したい。「崩された失点」とか「危険察知能力」とか。でもそれをやっていると結局全部書き写すことになりそうなので、ぜひ自分で読んでみてください。サッカーとサッカー選手を理解する上で本当に助けになる本です。

通読して舌を巻いたのは、岩政選手が常に細かいところを見て、その意味するところを緻密に考え(まあここまでは一流選手なら皆やっていることだろうが)、それを、できるだけ曖昧さをそぎ落として論理的な文章で表現することに成功しているということの貴重さである。しかし更に面白いのは、そういう文章の中に「雰囲気」という言葉が何度も出てくることだ。スタジアムの雰囲気。練習場の雰囲気。ピンチの場面の雰囲気。セットプレーの時の雰囲気。ピッチ上の事象を、技術や戦術や心理の言葉で説明してみても、割り切れずに残ってしまう「雰囲気」。その恐ろしく不思議な実体のないものは、なかなかにコントロールし難くて、時にとんでもない奇跡を起こす。それ故に私たちは繰り返しスタジアムに赴くのだ。岩政選手はそのことをよく知っていて、この本を書いている。だから決して頭でっかちの本にはなっていない。サッカーを愛する人間の心に訴えかけてくるのだ。

文:頼野亜唯子

前のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ