無料記事:沖縄で見られた取り組み【島崎英純・2016年沖縄キャンプ総括】(2016/01/29)

沖縄キャンプに臨んだ浦和レッズ

浦和レッズは1月18日から27日まで、沖縄県島尻郡八重瀬町の東風平運動公園サッカー場で第一次キャンプを張り、現在は帰郷してオフ期間を過ごしている。

今冬の沖縄地方は天候が芳しくなく、浦和がキャンプを張った10日間は大抵曇りか雨、そして日によっては強い風が吹き付けるなど、コンディションは良好と言えなかった。しかしミハイロ・ペトロヴィッチ監督は以下の様に語っている。

「我々は常にポジティブシンキングです。沖縄の天気は良くなかったですけれども、それでも日本中の天気を見てみれば、ここが一番良かったのではないでしょうか。選手たちは若く、強いですから、風が強かろうが、雨が降ろうが、トレーニングの邪魔には決してならなかったと思っています。私は歳なので強い風や雨がこたえましたけれども(笑)、選手は全く問題なかったと思います」

18日のキャンプ初日は現地到着直後で午後練習のみ。翌2日目と3日目は午前、午後の2部練習を行ったが、4日目は午前練習をこなした後の午後練習時に猛烈な雨に見舞われ、約40分間のジョギング&ダッシュメニューで終了した。5日目は若干天候が回復して2部練習に戻ったが、6日目はまたしても降雨が続いて午前練習にミニゲームなどの実践メニューを実施し、午後はホテル内での調整に勤めた。

そして7日目のキャンプ初となるトレーニングマッチ・海邦銀行SC戦は今キャンプ中で最も厳しい天候となり、豪雨と暴風が吹き荒れる中で30分✕4本のゲームを行い、8─1で勝利した。8日目に今キャンプ唯一のオフ日を設けた後の9日目はようやく天候が回復し、最終日の沖縄国際大学とのトレーニングマッチは穏やかな気象条件の中で18─1の大勝を収めてキャンプを締めた。

ちなみに最終日のトレーニングマッチは当初Jリーグクラブとの対戦が予定されていたが、相手側の事情でキャンセルとなり、急遽地元クラブの沖縄国際大学が対戦を受諾して実現した一戦だった。天候不順で練習内容の変更を余儀なくされてしまった点、実力が拮抗した相手とのトレーニングマッチが組めなかった点などは事前プランと異なり、チーム構築に何らかの影響を及ぼしてしまったかもしれない。

天候には恵まれなかったが、環境は良かった

一方で、トレーニング場所となった沖縄県島尻郡八重瀬町・東風平運動公園サッカー場の環境は素晴らしかった。那覇市から車で約30分の近郊地で、グラウンドは高台にあり、敷き詰められた芝生は真冬にも関わらず新緑で芝足も適切だった。また、八重瀬町役場の方々が総出でホスピタリティ業務を行い、チームスタッフ、選手たちの動線が適切に保たれ、ファンサービスなどの対応も混乱はなかった。

阿部勇樹キャプテンが全日程終了後に自身のSNSで「大勢の地元スタッフの皆様の協力があり、いいキャンプができました!! 本当にありがとうございました」と感謝の意を述べるなど、八重瀬町役場、そして現地ボランティアの方々は素晴らしい運営でチームをサポートしてくれた。また、連日訪れるファン、サポーター向けに沖縄そばなどの飲食出店も出店するなど、当地でのキャンプ環境は充実の一言。この点だけでも、今季浦和が初めて沖縄でキャンプを張った意義があったと言えるだろう。

個人的には、八重瀬町役場の方々には我々メディアにも連日丁寧な対応をして頂き、原稿作成時に会議室も用意して頂くなど、これ以上ないほどのお世話をして頂いた。この場を借りて心から御礼を申し上げたい。10日間、本当にありがとうございました。

沖縄キャンプ中の浦和の練習については、例年と同様に第一次キャンプは選手たちのコンディションを向上させるフィジカルトレーニングに主眼が置かれていた。特に午前練習の大半はそれに関したメニューが組まれ、野崎信行トレーナーが一括指導する中で体幹トレーニングやジャンプ、ステップなどを組み合わせたサーキットトレーニング、そして心肺機能を高めるジョギング&ダッシュの20分間走、特定距離をダッシュで駆け抜けるシャトルランなどを入念に実施した。

オフの短さには不安も

だが、今季は昨季とは異なる事情があった。それはオフが短期間しか取れなかった点である。浦和は2016年1月1日の天皇杯決勝まで昨シーズンを戦い、15日にチームを始動させ、18日から沖縄キャンプへ入った。浦和は昨年12月のチャンピオンシップ準決勝・ガンバ大阪戦(2015年11月28日)から天皇杯準々決勝・ヴィッセル神戸戦2015年12月26日)までの約1か月中断期間があったが、公式戦を控える選手は心身を完全に休ませられず、元旦の天皇杯決勝を終えた後にようやく約2週間の短期オフを得て新シーズンに臨んでいる。

その点を踏まえた上で、沖縄キャンプでの選手たちの動きは軽快だった。厳しいトレーニングを難なくこなし、ボールを使ったメニューにも早々に取り組み、ゲーム形式の実践メニューではシーズン中さながらの真剣な動きで好プレーを見せていた。何人かの選手に聞くと総じて調子が良いと語り、身体面の問題を抱えていない者が多かった。だが、これはある意味当然のことでもある。約2週間のオフしか取れなかった選手はおそらく昨シーズン作り上げた身体をクールダウンさせることなく新シーズンに突入したと思われる。これは日本代表に選出された選手が辿るケースで、国内リーグ終了後の翌年始にアジアカップやワールドカップ予選に臨むパターンと似ている。

約2週間のオフは長いようで短い。プロサッカー選手の心理としては1週間ほどプライベートに時間を割いた後、残りの1週間は新シーズンへ向けた準備期間に充てるだろう。心配なのは彼らが受ける心身のダメージだ。これまでは新シーズンに向けて十分に英気を養い、始動直後のキャンプではシーズン中のバイオリズムに留意しながら1年間戦える体力作りを行う。しかし今季はそのパターンが崩れるためにピークが早めに訪れ、その後の落ち込みも早く迎える可能性がある。浦和の場合は毎年シーズン終盤に調子を落とす傾向があった。ならば今回は選手のコンディションが影響してシーズン中盤にチーム状態が下降する可能性もある。

経験したことのないオフ期間を経てキャンプを実施したチームは今、好調な状態にあると見る。1月31日から始まる鹿児島指宿での第二次キャンプでは5試合のトレーニングマッチが組まれているが、ここでのゲーム内容は精査すべきだ。これまで以上に好調ならば、公式戦初戦のAFCアジア・チャンピオンズリーグ・グループリーグやJリーグ開幕時のチームは良い状態で臨めるかもしれない。ただし、その後のチーム状況は予測できない。沖縄キャンプでの鋭い選手たちの動きを見て、個人的には心配事が増えてしまった。

後ろは固定、前線は流動的に

ペトロヴィッチ監督が指導するサッカースタイル、戦術志向については選手のコンディションの仕上がりが早い影響からか、キャンプ中盤あたりから積極的なトレーニングが成されて熱を帯びた。後方からの丁寧なビルドアップ、縦パスの意識、サイドへの展開、前線トライアングルのコンビネーションなど、チームコンセプトの骨子にブレはない。ただ、監督の言動では「中央から攻めろ」、「縦パスの意識を高めろ」、「前線トライアングルの連係を密に」、「攻守転換の意識」、「前からの追い込み」などのフレーズが多々聞かれ、戦術の再徹底を図る意図が感じられた。

そしてチーム構成について。まずバックラインは加賀健一(右ストッパー)、ブランコ・イリッチ(リベロ)、槙野智章(左ストッパー)のユニットと、森脇良太(右ストッパー)、永田充(リベロ)、橋本和(左ストッパー)のユニットに固定されていた。また両翼も平川忠亮(右)&宇賀神友弥(左)のセットと、関根貴大(右)&梅崎司(左)のセットで変わらなかった。またボランチは柏木陽介がリハビリ調整、青木拓矢が左足ハムストリング負傷で途中離脱した影響もあったためか、阿部勇樹と那須大亮の両ベテランに対して駒井善成と伊藤涼太郎の新加入選手が組んでプレーしていた。

一方、連日組み合わせが変化したのが前線トライアングルだ。興梠慎三、ズラタン、李忠成、石原直樹、高木俊幸、武藤雄樹の6人が日替わりでグループを形成してプレー。前線の組み合わせを多数試すのは昨季のキャンプでも同じだったため、それを踏襲すれば、ペトロヴィッチ監督は当面攻撃陣のレギュラーを固定せず、ターンオーバーでシーズン前半戦を戦う心積もりがあると思われる。前述した6人は昨季から在籍している既存選手だが、このうち石原が昨季サンフレッチェ広島から移籍直後の4月に右膝前十字靱帯損傷を負い、約半年間のリハビリを経て復帰しており実績が少ない。

しかし、キャンプでの動きを見る限りは周囲とのコンビネーションにまったく問題なく、シーズン序盤からレギュラーとして十分に戦える素養を感じさせた。また、ズラタンはキャンプ終盤に疲労が蓄積して別メニューとなったが、その他の選手は躍動的な動きで好調さをアピールするなど、現状は誰がピッチに立ってもプレーレベルに遜色はない。

ボランチの状況も懸念材料

このチームの問題点、課題点はやはり守備面にあると思われる。新加入のイリッチは足下の技術に優れるため、リベロでの起用が有力だ。ただ、そうなると昨季までレギュラーを務めた那須が弾かれることになる。沖縄キャンプでの那須は一度もバックラインへ入らずにボランチでプレーしたが、ベテランの彼は一切動揺した素振りを見せておらず、これから着々と挽回を図るだろう。

今季の浦和は湘南ベルマーレからU-23日本代表の遠藤航を完全移籍で獲得したが、彼は今夏のリオ・オリンピックに出場するチームの中核であり、今キャンプも不参加となっている。遠藤は今後もU-23日本代表の各種強化試合、そしてオリンピック本大会への参加でチームを離脱することが多くなると思われ、計算が立たない。

また、柏木が左膝の負傷で出遅れ、通常練習への本格参加は鹿児島キャンプ以降となるため、シーズン序盤のバックライン、ボランチの組み合わせは依然流動的だ。この場合、ボランチで起用されている駒井、伊藤らの新加入選手にもチャンスがあると思われるが、彼らの本来の適正ポジションはサイドアタッカー、もしくはシャドーであるため、この点も不透明さを増す。

一方、年始に左膝関節遊離体除去手術を行ったGK西川周作は沖縄キャンプでリハビリメニューをこなしたが、順調に回復し、指宿キャンプで本格復帰する予定だ。本人も公式戦初戦のACLグループリーグ第1節・シドニーFC戦への出場を目指しており、見通しは明るい。

いずれにしても、チーム構築の本格着手は31日からの鹿児島キャンプになるだろう。前述したようにチーム全体の仕上がり具合はこれまでより早いペースで進んでいる。今後のチーム状況については鹿児島キャンプのレポートの中で詳細にお伝えしようと思う。

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