「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

【レビュー】最後の感謝を伝えるために(前編)/「ENCORE」 中田浩二 柳沢敦 新井場徹 合同引退試合(2015.07.08)

 スタジアム内にある内階段からコンコースに出るための扉を開けた瞬間、確かに紅い風が顔のそばを吹き抜けた気がした。扉の向こうにあるはずのコンコースは視界には入らず、いきなり目に飛び込んできたのは紅い背中の連なり。首を伸ばして少しでも近くから見ようとする人や、手を伸ばしてスマートフォンに画像を残そうとする人たちの視線の先には、壇上でトークイベントを行う79年組の姿。それを横目で見ながら警備員がロープで仕切るわずかな隙間を抜けながら、熱気が充満するコンコースを歩いていくと自然と涙が溢れそうになった。

 イベントを見つめる人たちは興奮の面もちだった。記念グッズを買い求めるために長蛇の列をなすオフィシャルグッズ売り場に並ぶ人も、ジムビームの協賛による3人の等身大パネルの前で記念撮影する人も、みんながこれから始まる引退試合を楽しみにしていた。しかし、その引退試合は3人にとっての最後の90分。それを見届けてしまえば本当の終わりがやってくることを知りながら、これ以上先が無いことをわかっていながら、この最高の雰囲気に浸りつつ試合が始まるのを楽しみにしている。楽しいけど寂しい、悲しいけど笑っていたい。そんな相反する気持ちがごちゃごちゃに入り混じりながらコンコースを漂っていた。

 IMG_4151

(残り 1387文字/全文: 1921文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ