「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

☆無料記事☆サントスFCがディエゴ・ピトゥカとの仮契約を発表した件について/【コラム】

鹿島アントラーズに2021年から在籍するディエゴ・ピトゥカについて、元の所属先であるサントスFCが来季から4年契約を結んだことを発表した。さらに、その発表の中には、サントスFCのアンドレス・ルエダ会長がこの移籍期間中にピトゥカを復帰させようと鹿島と交渉している、という驚くべき内容も含まれていた。

3日間のオフを経て、昨日(20日)からトレーニングを再開した鹿島だが、そこにピトゥカの姿がなかったこともあって、様々な憶測が飛び交っている。詳しい経緯を吉岡宗重フットボールダイレクター(以下FD)に取材した。

 

https://twitter.com/santosfc/status/1682151522753212416?s=61&t=Lrm0WFOD-Ey42MmsJQPN8A

 

 

まず、ピトゥカはちゃんとアントラーズクラブハウスに来ている。練習場には姿を見せていないが、それはもともと決まっていたことだった。FC東京戦を終えて中断期間に入るため、少し痛めていたアキレス腱をしっかり治療して中断明けの札幌戦に備える予定だった。彼がグランドに姿を見せていないことと今回の件は全くの無関係である。

ただし、その上でもサントスFCの発表は鹿島にとっても寝耳に水だったようだ。吉岡FDも「今朝、知りました」という。

鹿島としては来季以降もピトゥカとの契約更新を望み、「クラブとしてできる範囲で」の契約延長を打診していたという。ただ、ピトゥカの代理人が要求してくる額とは開きがあったようだ。それでも誠意を持って交渉を続けている途上だったという。しかし、鹿島の誠意も虚しく、ピトゥカは次の所属先をサントスFCにすると決意したようだ。

現在、FIFAルールで6ヶ月後に契約が切れる選手は、別のクラブと仮契約を結ぶことが認められている。鹿島とピトゥカの契約は今年一杯で切れるため、ピトゥカが次の契約を結ぶことについては何ら問題がない。そうした事例はいくらでもある。しかし、それを発表することは現所属チームへの影響も少なくないため、仮契約してもアナウンスしないことが通例となっている。サントスFCの行動は世界的に見ても異例だ。

 

そこで絡んでくるのがサントスFCの状況だ。現在、ブラジル・セリエAを戦うサントスFCは4勝4分7敗の14位に沈んでおり、降格圏の17位ゴイアスとはわずか3ポイント差。低迷するクラブへの風当たりは強く、会長への批判は強まっていた。その流れを変える起爆剤にピトゥカの仮契約が利用されてしまった。仮契約事態は珍しくないものの「サントスでのピトゥカの人気は絶大」(吉岡FD)という人気の高さを利用して、それを敢えて発表するという通常ではありえないやり方で批判をかわしたかったのだろう。

ただ、鹿島としては想定外の話しだ。吉岡FDは不快感を隠そうとしなかったが、ルール違反があったわけではないため表立った抗議はしないという。

「ピトゥカを欲しがるブラジルのクラブはたくさんある。ただ、サントスが相手だとどんなに頑張っても難しい」(吉岡FD)

最終的にはピトゥカ自身の決断が決め手となる。彼が抱いているサントスへの愛情を上回ることができなかった。

 

 

気になるのは今季の残りをピトゥカは鹿島でプレーするのかどうかだ。

ここについて吉岡FDは放出するつもりは毛頭なく、そもそもサントスFCからレターも届いていないという。また、来季以降の契約交渉をするにあたり、ピトゥカからはいまある契約についてはきちんと全うする旨を伝えられてきたという。

「本人からも、今季についてはしっかり誠意を持ってプレーすると目を見て話してもらっています。ピトゥカ自身は誠実な人物です。日本でプレーする機会をくれたことを感謝していたり、決まってる契約については鹿島のために全うすると言ってくれています」

取材中、吉岡FDのスマホが鳴った。相手は通訳らしかったがピトゥカが話しをしたい、ということだった。

「サントスからの発表について、本人が説明したいんだと思います」

おそらくピトゥカにとってもサントスFCの発表は予想外だったのだろう。ただ、不幸中の幸いと言うべきか、しばらく試合がない中断期間での発表だったため、チームに動揺が走るようなことは起きていない。試合直前のピリピリした状況でなくてよかった。

 

 

残念ながらピトゥカとは今季でお別れになる。

ただ、彼は常々「タイトルを取るために来た」と繰り返し、つい先日も「自分もレオ(・シルバ)みたいにこのクラブに名を刻みたい」と改めてタイトルへの思いを語ったばかりだ。J1とルヴァン杯という残された2つのタイトルに向けて全力を尽くしてくれることを期待したい。

そして、クラブは柴崎岳にオファーを出している。

「岳は自分の考えをしっかり持っている選手。常に彼とはコンタクトを取り続けてきましたが、彼はまわりが『帰って来い』と言ったから帰ってくる選手ではない。ただ、彼が(日本に)帰ると決断したのであれば当然取りに行きます

ピトゥカが去ることになっても柴崎ならば。

とはいえ、今季ようやく本領を発揮し始めただけにピトゥカとの別れが確約されたことは寂しい限りだ。なんとか残ったタイトルのうち1つを獲得し、彼が見せてくれた献身性への餞別としたい。

 

(写真:© KASHIMA ANTLERS

 

 

 

 

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