浦レポ by 浦和フットボール通信

秀逸だったクロスの動き、キーワードは敵将の「ブラインドサイド」【轡田哲朗ゲームレビュー/明治安田生命Jリーグ第22節 磐田戦】


(Report by 轡田哲郎)

3人の交代含めた起用メンバーの変化は成功した

浦和レッズは15日のリーグ第22節ジュビロ磐田戦を4-0で勝利した。今のところ、今季のベストゲーム候補に挙がるような試合運びで、不安視された5バックの守備を崩す攻撃パターンにも多くの光明が見える試合だった。

浦和はマウリシオが累積警告で出場停止だったところに、阿部勇樹を起用した。彼はオズワルド・オリヴェイラ監督が「とても珍しい宝石」と表現したほどで、36歳の年齢からも使いつぶすような起用の仕方はできないが、こうした事態が訪れた時にはいつでも重要なポジションを任せられる。そして、マウリシオよりも高いライン設定は攻撃にも多くの作用があった。また、右のウイングバックは疲労の見える橋岡大樹に代わって森脇良太が起用されている。

試合の流れを先に進めると、2点リードの時点で柏木陽介を休ませるような交代で負傷明けの長澤和輝を復帰させ、疲労の出た森脇に代えて久しぶりのピッチになる菊池大介、最後は興梠慎三に代えてこちらも久々の荻原拓也を投入した。少し嫌な言い方をすれば、交代に関しては“裏メンバー”とも言えるチョイスで、得点差を生かしたモチベーションと試合勘の維持につながる起用だった。そして、荻原がしっかりとアシストという結果を出すのだから、失敗要素はどこにもなかった。

秀逸だった意識の外側にいくサイドの使い方

このゲームは、ハーフタイムの両監督のコメントが非常に興味深いものだった。浦和の攻撃に対して磐田の名波浩監督は「カウンター時のブラインドサイドをケアしろ」という指示を送っている。

聞き慣れない用語かもしれないが、ブラインドサイドというのはピッチを縦に見た時に狭い側のサイドのことだ。その対義語はオープンサイドであり、サイドチェンジを送るのはオープンサイド、縦のワンツーなどで抜け出しを狙うのがブラインドサイドという見方ができる。

この日、浦和の攻撃はこのブラインドサイドの使い方につながる、裏への抜け出しやゴール前に入り込む前線の選手たちのコース取りが秀逸だった。例えばファブリシオがボールを持って右前方に向けてドリブルをした時、その視野の先には大きなオープンサイドが広がっている。順当なのはその方向に向けて攻撃を展開していくことで、磐田の守備陣はそれに合わせて斜めに下がっていくことになる。

今まではそこで意表を突いたような展開がなかった浦和だが、この日は興梠や武藤、両ワイドの選手に柏木も絡み、タイミングよくブラインドサイドへ展開する攻撃が目立った。こうなると、守備側の選手と攻撃側の選手やボールの動きがクロスすることになるので、マークを捕まえるのが非常に難しくなる。大外クロスの視野リセットに似た効果があるという言い方もできるだろう。

この攻撃パターンは、サガン鳥栖戦の2日前のトレーニングで仕込んでいたパターンの1つだった。順当なサイドチェンジをオプションに持ちながら、相手と逆の動きで同サイドを突く攻撃はかなり機能していた。例えば3点目になったファブリシオのボールの受け方もそうだったが、相手がどちらかのサイドに向かってスライドする時に、逆のクロス方向に動くか止まるかをすると、簡単にマークが外れる。鳥栖戦ではボールホルダーの体が向いている方、向いている方に攻撃が流れて単調になったが、この試合ではかなりうまくアクセントが加わっていた。これは、2戦無得点が続いたV・ファーレン長崎戦と鳥栖戦から見れば、大きな進歩だったといえるだろう。

相手ボランチのケアと長澤の状況判断能力

一方で、オリヴェイラ監督もハーフタイムに相手ボランチへの対応を指示している。柏木を早めに代えて長澤を入れたのも、そこを埋める狙いもあったはずだ。

左シャドーのファブリシオはどうしても前残りしがちで、それがまたカウンターの起点になることもある。しかし、戻り遅れることは中盤に問題を引き起こす場面もあった。例えば、ファブリシオが遅れた時に同じ左サイドのボランチにいる青木拓矢は、少し下がり目に構えることが多かった。それは、自分が出ていくと一気にそのサイドがスカスカになるので仕方がない。一方で、右ボランチの柏木は追ってはめ込むようなボール奪取を狙う場面が多く、その2人の間が斜めに開いたゲートのようになってしまう瞬間があった。

その時、磐田はその間にボールを通してゲームメーカーの田口やシャドーの山田がボールを持てていた。磐田の山田が「前半はその形でうまく裏返せていたけど、後半になって疲れも出てできなくなった。夏場も要因だったと思う」と話したように、磐田も十分に浦和に生まれた穴をねらっている面があった。

そこで、交代出場で青木が右にシフトし、左ボランチに入った長澤にその部分の修正点を聞くと、このような答えが返ってきた。

「相手のボランチのところになかなかいけない状況で、田口選手がボールを散らしていたので。システム的に行きにくいところでもあるんですけど、そこに強く行くようにという指示はありました。もちろん前の選手が全て残ると数的不利でボールを運ばれるんですけど、かといって全部ついてこられると彼らの体力がなくなるので。取った時に良い形で当てられるのがベストですね」

長澤は宇賀神が陥る数的不利を解消するため、あえて先にサイドを埋める場面もあった。そうなると、ファブリシオは自分に近いインサイドに戻ってくれば良いことも状況次第で起こり得る。そのカバー能力と状況判断は、綻びを見事に埋めた。そして、試合の最終盤ではファブリシオのポジションに元気な荻原を入れてさらに穴を埋めている。この戦況判断を見ても、長澤の復帰はチームにとって本当に頼りになる選手が返ってきたと感じられるものだった。

5バック相手のゴール量産はチームに確信を与える

4得点には出来過ぎの感もあり、オリヴェイラ監督が「先にあった相手のビッグチャンスが入っていたらどうなっていたか」と話したように、磐田にもしっかりとした力があった。だが、逆に言えば守備時に5バックになるにしても、浦和から勝ち点3を奪いに来るチームを相手にすれば、相手の力も利用しながら自分たちの力を上手く出せるという側面もあるのだろう。

完全なベタ引きになる対戦相手は今後そこまで多くはなさそうだが、4バックに対しては有効な攻撃ができることはすでに証明している。この磐田戦で5バックを攻略したことは、今後に向けて大きな一歩になったと言えるのではないだろうか。

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