ドイツの銀行口座を開設するのは、まだ滞在許可証（ビザ）を得ていない者にとっては大変です。前項でも記した通り、昨今のヨーロッパは移民や難民の問題があって多国籍の人への銀行口座開設を制限する傾向にあります。
　そんな中、実店舗を置かない『ネット銀行』が注目を集めています。既存の『支店銀行』ではビザを取得せずに口座開設をするのは困難なのですが、『ネット銀行』の場合はドイツ国内の郵便局、またはネット回線を使用したビデオチャットで本人確認ができれば口座開設できるケースがあるのです。現状でドイツ国内で口座を開設できる『ネット銀行』には以下があります。
comdirect bank
N26.com
Transferwiese Boderless Account
Fidorbank.de
　ただ、ここでまた難題が発生しました！　しかも、この問題は日本のパスポートを所有している人に関してです。先ほど、『ネット銀行』はドイツ国内の郵便局で本人確認をすれば口座開設手続きができると記しました。しかし！　その本人確認の元になる日本のパスポートはなんと、ドイツの郵便局の本人確認認証システムの項目に引っかかって承認されないんです！　各国のパスポートには本人の氏名、生年月日、パスポート番号、パスポート取得日、有効期限、そして本人の写真などが記されていますよね。もちろん、この各項目も重要なのですが、もう一点、諸外国のパスポートには本人の生誕地の記載があるんですって。でも、日本のパスポートを所持している方は確認して頂きたいのですが、日本のパスポートには生誕地の記載がないんです……。これによって、ドイツの郵便局では本人確認の際にシステムエラーが出て弾かれてしまうんだそうです。なんなのよ、それ。それじゃあ、日本人はやっぱりどんな手を使っても銀行口座を開設できないの？　悲嘆に暮れそうになったのですが、もうひとつ、本人確認の方法がありました。それは『ビデオチャット』です！　
　今回、僕は上記の『ネット銀行』のうち、『N26.com』という銀行の口座開設を目指しました。『N26.com』はドイツ・ベルリンのスタートアップ企業が立ち上げた銀行で、ウェブサイトやアプリ、そして電話での応対などが全て英語なので、ドイツ語に疎い僕にとっては心強い存在だと思いました。また口座開設後に使用できる『N26.com』のアプリは非常に分かりやすい機能が多く、また口座開設時にはデビットカード機能が付いたカードももらえるとのこと。その他、ネット銀行の場合はATMでの現金の引き出しや預け入れなどに様々な制限があるのですが、『N26.com』の場合はそれがお得な手数料だったりするので、これは良いと思って早速トライしましたよ。以下、その一部始終をお伝えします。
　まずは携帯電話を用意します。ここから『N26.com』のサイトへ行き、ここで口座開設の項目を選ぶと、係の人とのビデオチャットが開始される仕組みです。あれ？　その携帯電話、ドイツのSIMカードをどうやって入手したかって？　実はそれも紆余曲折あって大変だったのですが、その件については別の機会にお話するとして、今回は、すでにドイツの携帯電話があるという前提でお話しますね。

　ビデオチャットが立ち上がりました。

係の人『ハロー。ナイストゥーミートユー！　口座開設をしたいのね？」
僕「はい。そうです。久しぶりにドイツで英語で会話して、少し安心しています」
係の人「（笑）。うちはすべて英語で通じるから安心して。じゃあ、まずは本人確認するのに今の通信環境がちゃんと整っているか調べるから、少し待っててね」
僕「はい。いつまでも待ちます」
係の人「うん、大丈夫ね。回線は問題ないみたい。じゃあ、本人確認をしましょう。確認は、あなたのパスポート？　それとも滞在許可証かしら？」
僕「パスポートです。でも、日本のパスポートなんですけども……」
係の人「日本のパスポートでも大丈夫よ。じゃあ、あなたの写真が載っているページを開いて、携帯のカメラに向かってかざしてみて！」
僕「こんな感じでどうでしょう？」
係の人「オーケー。良い調子よ。写真は判別できるし、文字も見えるわね。じゃあ、肝心のホログラムを確認するわね」
僕「えっ、ホログラム？　そんなのパスポートにありましたっけ？」

　これまで、僕は日本のパスポートにホログラムが付いているなんて知りませんでした。このパスポートが日本国の発行した本物であることを証明するためのものなんですね。ちなみに皆さんは知ってました？　今の日本のパスポートはICチップ付きで、中身の紙面にはICチップが埋め込まれた厚紙が挟み込まれていますよね。でも、それ以外に、顔写真があるところのページにいくつかのホログラムがあしらわれているんです。もしパスポートを所有している方は、どんなマークのホログラムか確認してみてください。

係の人「うーん、あなたの部屋の光の加減でホログラムが見えないわねぇ。もうちょっと、こんな感じでパスポートを傾けてくれる？」
僕「こんな感じですか。そもそも僕にもよく見えてないんですが……。いや、偽物ってわけではないですよ。このパスポートは本物ですから。いや、ホント、ホントなんで……」
　逆に疑わしい言動になっていることに焦りが募ります。でも、ここで本人確認がされないと、銀行口座が開設できないどころか、滞在許可証の取得も不可能になってしまいます。
僕「あっ、なんか、キラキラしたのが見えました！　僕の写真に被さってます。ほら、ここ、ここ！』
係の人「ちょっと待って……」
　長い沈黙。係の人、なんだか眉間にシワが寄っています。画面を凝視すること数秒間……。
係の人「オーケー！　確認できたわ。これであなたの口座を作成できるわよ」
　やったー！　無事に口座開設の手続きが終わりました！　この後、すぐさま僕の口座番号がメールで通知されて、専用アプリを立ち上げることもできました！　これで、またひとつ、滞在許可証取得までのハードルをクリアしました。
　でもでも、その道のりは、まだまだ長く続くのです。
（続く）