【全文公開】日々雑感-原口元気『情念の選手、不屈の選手』

2016年10月、ドイツ・ベルリンでの原口元気/©Hidezumi Shimazaki

闘う場所

一方で、カタールワールドカップに出場する日本代表への選出については一抹の不安を抱いているようだった。今季のウニオンで出場機会が減っている点は周囲から間違いなくマイナスと捉えられるだろうし、今の代表が用いるシステムやポジションの特性をウニオンの元気がどうアダプトするかという点においても、なかなか答えを見出せていなかった印象がある。

13年半に及ぶ彼のプロサッカー人生をつぶさに見てきた。2009年初頭に弱冠17歳で浦和レッズとプロ契約を交わし、破天荒な振る舞いを咎められる中でも魂の込もったプレーでファン、サポーターの心を揺り動かし続けた。

浦和での元気はダービーに強かった印象がある。特に2011611日、NACK5スタジアムでの大宮アルディージャとの『さいたまダービー』で倒れ込みながら決めた同点ゴールは、その情念と泥臭い所作をも含めて、個人的に今でも彼のベストゴールだと思っている。

2012年夏のロンドンオリンピックに出場する代表メンバーから落選した直後、201277日の埼玉スタジアム2002でサガン鳥栖を相手に2得点をマークして勝利の立役者になった元気は、『次に向けて頑張る。ただ、それだけ』と呟いた。このときのゲームレビューは浦研プラスのアーカイブに残っている。今一度、当時の僕が書いた原稿を読み直してみると、末尾にこんなことが記されていた。

『何かに落胆した時、挫折した時、打ちひしがれた時、その後に示すべき強さを、原口元気という選手に教えてもらった。何かの折に、私は必ず、彼が躍動した2012年7月7日の埼玉スタジアムの夜を回顧するだろう』

2022年秋のドイツで、僕は今、この言葉を噛み締めている――。

 

日本代表を率いる森保一監督がカタールワールドカップに臨む日本代表メンバーの名前を告げている。26人全員の選手を羅列したが、そこには原口元気の名前はなかった。

夕闇に沈むフランクフルトの街を歩いている。食材を買わなくては。スーパーマーケットに入り、トマトとナス、それからチーズを購入して再び外へ出る。爽快な青で満たされていた昼の空が、夕陽に溶けて真っ赤に染まっている。その空を見上げた瞬間、僕はこの日初めて激しく感情が揺れ動いた。

霞んで見えなくなった風景にひとり佇みながら、ベルリンに居る元気のことを想っている。

この選手は決して順風満帆なプロサッカー人生を辿っていない。むしろ挫折と蹉跌を繰り返してその都度悔し涙を流し、それでも這い上がってファイティングポーズを取る不屈の選手だ。だからこそ僕は、このプレーヤーに心を突き動かされ、常にその心情に寄り添いたいと思っている。

夕陽が落ちても、再び朝陽は昇る。

僕は来週、旧東ベルリンのケーペニックにある『シュタディオン・アン・デア・アルテン・フェルステライ』へ行く。

元気には闘う場所がある。その舞台は、彼が目指す新たな未来へ繋がっている。10年前と同じく、魂を込めて全力で駆ける彼の姿を、僕はこの眼に焼き付けたい。

(了)

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