【無料記事】浦研的日日是好日-『スーパーマーケットでの出来事と心の触れ合い。そして、福田さんとのネット対談実施のお知らせ』2020.04.29

店先に、ドイツ語で『フランクフルトはコロナと戦う』という文言が貼られています。

 ロックダウンの制限措置が緩和されて1週間が経過したドイツ・フランクフルトですが、その影響もあって若干この地に住んでいらっしゃる方々の気も緩みがちになっている雰囲気があります。

 ドイツ国内の一日の新型コロナウイルス感染者数は先週に2,000人台から1,000人台に減少しましたが、ウイルスの基本再生産数はR0.9からR1.0に上昇しました。基本再生産数とは『感染症に感染した1人の感染者が誰も免疫を持たない集団に加わったとき、平均して何人に直接感染させるかという人数』の数値で、今のドイツではこの数字が1.0以下でないと医療崩壊の可能性が高まるんだそうです。

 制限措置緩和によって外出する人々が増えたことを憂慮したドイツ政府は、州毎に各種の予防措置を要請しました。その結果、僕の住むフランクフルトが属するヘッセン州はスーパーマーケットなどの店舗、また銀行、郵便局を利用する際はマスクの着用が義務化され、鉄道、バスなどの各種交通機関も同様にマスクを着用しなければ乗ることができなくなりました。もし、これに違反した場合は50ユーロの罰金になるので、街中ではマスクをして歩いている人々の姿が格段に増えました。

 ただし、これまでのドイツでは医療用のマスクこそ流通していましたが、日本の方々が一般的に買い求めるような家庭用マスクはほとんど売られていなかったので、そのようなタイプを薬局や化粧品店などで購入するのは難しい状況です。そこで、こちらの方々はスカーフやハンカチなどから手作りでマスクを作製して、それを装着している方が多いです。マスクによって自身の感染予防をするのではなく、飛沫拡散を防いで他人にウイルスを移さないという観念からすれば、そのような行為も意味があるということを、こちらの方々も理解してきているように感じました。

ここは、普段は洋服などの修理を扱うお店ですが、店先に『マスクを持ってませんか?』という看板を立てて、手作りのマスクを販売しています。窓に飾られている赤い布が、その手作りマスクです

スーパーマーケットでの激闘

 ところで最近、3日に一回続けている約30分ほどの散歩の途上に、お客さんの少ないスーパーマーケットを見つけました。そこは安売り系のスーパーで品揃えがそれほど豊富でないこと、そして商店街などから少し離れた閑静な住宅地にあることから、穴場的な存在になっているのかもしれないと思い、今はとても便利に利用させてもらっています。

 で、このスーパーマーケットの重鎮的なおばさん店員さんが、非常に個性的な方なのです。

 このおばさん店員さんの接客態度はお世辞にも良いとは言えず、極めて無愛想。僕が初めて入店したとき、女性のお客さんがレジに並んでいたのでソーシャルディスタンスを保って後ろに付いたら、いきなり、そのおばさん店員さんが飛んできて、「このレジは今、やってないの! なんで、もう一列のレジに並ばないのよ!」と怒鳴られてしまいました。しかも『仕方ないわね』とばかりに前の女性の会計作業はしたのですが、僕には「だから、別のレジに並びなさいって! こっちじゃ会計しないわよ」と言い放つ始末。しかも彼女のドイツ語は速射砲なので、ネイティブではない僕からすると言葉を十分に理解できず、ただ怒鳴られるばかりで若干落ち込みながらその場を後にしました。

 それから3日後、またしても件のスーパーマーケットに寄ったのですが、この日は両手に持てるくらいの商品しか購入しないと決めていたので、大きな買い物ワゴンを使わずに商品を手に持ってレジへ並んだら、例のおばさん店員さんが、またもや僕に向かって何か言葉を浴びせています。どうやら「今は買い物ワゴンの使用が必須なの!」とおっしゃっているようで、またもや叱責された僕は戸惑うばかり。すると、後ろに並んでいた青年がビール瓶を1本だけ片手に持って、おばさんにこう聞き直しています。

「買い物ワゴンって、俺みたいにビール1本しか買わない奴でも?」

 すると、おばさんは、その青年にも手厳しい言葉を浴びせます。

「そうよ! 何回言わせれば分かるのよ! あんたも、誰かも、みんなそうよ! 例外なんてないの!」

 そのおばさんは僕だけに厳しい態度を取っているのではなく、良い意味で言えば誰に対しても厳しいのだと理解できたのは幸いですが(笑)、それでも逼迫した状況に変わりはありません。でも、ここで後ろの青年が意外な行動に出たのです。

 なんと、その青年、「よーし、わかった!」とばかりに走って入口へと引き返し、僕に向かって大声で、「ああ、あなたはそこで待ってていいよ。俺があなたの分のワゴンも取ってくるから!」と言ってくれたのです。人の優しさに触れて胸がジーンとなった僕は、ワゴンを持って帰ってきた青年に対して、「お礼といってはなんだけど、僕の前に入って。先に会計してください」と提案したのですが、彼は首をブンブン横に振って「いやいや、最初からあなたが先なんだから、順番通りでいいんですよ。気にしないで!」と言って破顔一笑してくれました。

 無愛想なおばさんとの会計を済ませて店外へ出たら、すぐに若者も出てきて、運転席で待つ友だちの車の助手席に飛び乗り、豪快に窓を開けて一言、「「Tschüss!(チュース/ドイツ語で『じゃあね!』という意味)、良い週末を!」と言って走り去っていきました。いやー、疾風のように駆けていった爽やかな青年、あなたのことは忘れません。

今のフランクフルトは良い意味で静謐、落ち着いた空気が漂っています

 で、また3日後、僕はまたしても『私がルールだ!』おばさんの待つスーパーマーケットへ行き、大きな買い物ワゴンを押して入念に商品を吟味し、今日はどのレジが開いているかを仔細に観察したうえで、おばさんの元へ突撃しました! 

 おばさんは相変わらず無愛想で挨拶すら交わしてくれませんが(普通のスーパーの店員さんは大抵『こんにちは!』とか、『おはよう!』などと挨拶をしてくれます)、今回は万難を排して“勝負の場”へ向かった僕に文句をつける案件がなかったらしく、無言のまま会計作業を終えて下を向いていました。そのとき、おもむろに僕が「いつも、ありがとう!」と言うと、そのおばさんは下を向いたまま、それでも小さな声で「どういたしまして」と言葉を返してくれました。

 新型コロナウイルスの流行によって、ドイツ国内ではすでに6,000人以上の方々が亡くなっています。そんな危機的な状況下で懸命に仕事に従事しておられる医療関係者の方々、そして日々の生活を維持するために勤務してくださっている銀行、郵便局の方々、食料を販売するスーパーマーケット店員の方々などには感謝の念に堪えません。

 これからも、僕がこのスーパーマーケット独自のルールを犯したら、おばさんは躊躇なく僕を注意することでしょう。それが彼女なりの仕事への責任で、それによって僕たちは秩序ある行動を取り、このような状況でも安心感を携えて暮らしを営むことができるのです。

 今は、どんなに些細であっても、同じ街に住む方々と貴重なコミュニケーションの場を築けたことを意義深く思い、人と人との触れ合いが如何に心に潤いを与えてくれるものなのかを実感しています。

 

 さて、明日、4月30日に福田正博さんこと福さんと僕とでネット対談をすることにしました。浦和レッズのことや本人それぞれの今の状況、新型コロナウイルスの話題、また、それ以外にも少しライトで楽しい企画なども用意してお話できればと思っています。映像は編集して5月始めの1日か2日にはアップしますので、今しばらくお待ちください!

(了)

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