【無料掲載】日々雑感−西川周作『惹かれる理由』

苦難の中で

 久しぶりに彼と話した。

「元気でしたか~。僕ですか? 元気、元気! 何も変わらないですよ~」

 いつもと変わらない所作。それでも、その笑顔の裏にある心情を汲み取りたかった。

 つい最近まで、西川周作はエリート街道を突き進んできたと思い込んでいた。

 大分トリニータユースに在籍していた高校3年生時にトップチームへ2種登録され、翌年順風満々にプロ入りを果たした。当時、西川と共にユースから昇格した梅崎司(湘南)は彼の凄さをこう振り返っていた。

「周作の実力は群を抜いていた。常に年代別の代表にも選ばれていたし、GKでありながら、多分僕らの世代では一番キックが上手かったとも思う。自分はプロになれるかどうかギリギリだったと思うけど、周作は間違いなくトップに昇格すると思っていたし、チームを背負って立つ逸材だとも思っていた」

 大分の2004シーズンのメンバーリストに名を連ねる西川のプロフィールを見ると、1986年6月18日生まれで18歳の彼の身長は183センチ、体重は79キロと記されている。翻って今季、2018シーズンの浦和レッズのメンバーリストを見ると、32歳の彼の身長は183センチ、体重は81キロ。14年を経た今、彼の身長はまったく変わらず、体重は2キロ増加したのみである。ちなみに2キロの誤差はこれまでの経験から得た糧でもある。『79』では軽い。自らのベストだと理解して導いた数字が『81』。その意味を読み解くと、西川は18歳のときから今まで、自らの身体にほとんど変化を加えていない。

 問題は身長の方である。183センチのGKは『低い』と評される。思い出されるのは、かつて日本代表を率いたヴァイッド・ハリルホジッチ前監督の言葉だ。

「現代フットボールでは(身長が)190センチないと良いGKとは言えない。強豪クラブも強豪国も、そういう統計になっている」

 当時、代表の正守護神を務めていた西川にしてみれば自らを過小評価されたようなもので、少なからずショックを受けたに違いない。しかし、彼は指揮官の言葉を伝え聞いたうえで、こう吐露してもいた。

「いつからか、自分はプロの世界の中で低い身長のGKなんだなと理解していた部分がある。日々の鍛錬で身長を伸ばせれば良いけど、さすがにそこは体重を増減させるようにはいかないでしょ? だったら、他の部分で勝負するしかない。ステップや反応速度のアジリティとか、キックの質とか、GKが備えるべきスキルって他にもいろいろあるじゃないですか。今の自分はそれを突き詰めている。だから、『身長が足りない』と言われてもねぇ。ないものはないもん(笑)」 

 物事を突き詰めれば道が開けると信じている。その道程が険しいことを承知しながら、それでも彼は歩みを止めないでいる。

 2009シーズンから、サンフレッチェ広島在籍時代の2013シーズンにリーグ戦を1試合欠場した以外は全試合フル出場を続けている。今年の4月28日、Jリーグ第11節の湘南ベルマーレ戦でリーグ戦通算400試合出場を達成し、2014シーズンに浦和へ移籍してからは2018年10月16日現在で165試合連続フル出場を記録。だから、良い意味で彼の体調を気に留める者は少ない。常に浦和のゴールマウスの前に立っている。試合中に相手選手と接触して身体を痛めても必ず立ち上がる。不断の努力をうかがい知れない我々は、彼がそこに居る事実を当たり前のように受け入れている。

 西川の左膝は何度も痛めつけられてきた。プロ2年目の2006年に左ひざ靭帯損傷で全治3か月の重傷を負ってからはその悩みと日々向き合っている。2015シーズンは膝の遊離体軟骨の痛みに悩み、年間を通して利き足をほとんど使わずに逆足の右でプレーした。一介の選手ならば間違いなく支障をきたすはずで、傍目にもレベルの低下が分かるはずだが、彼はそんな素振りを微塵も見せなかった。翌年の1月初頭に左膝の手術へ踏み切った際もリハビリの苦労を吐露せず、今も粛々と連続出場を続けている。

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