【無料掲載】日々雑感[選手コラム]『高木俊幸ー再び冒険の旅へ』

辛苦からの解放と、迫り来る危機

 2016年5月に右膝内側側副靱帯損傷を負って一時戦線離脱して以降はベンチ入りすらままならず、チームメイトがピッチの上で戦う姿を遠くから見つめる日々が続いた。ようやく出番を与えられたJリーグ7月23日の2ndステージ第5節・鹿島アントラーズ戦は57分で途中交代。チームは敵地で勝利したが、同僚の柏木陽介に守備面の拙さを指摘されて意識改革を迫られた。元来の人見知りで、あまり感情を表に出さない彼はここで奮起し、YBCルヴァンカップ準々決勝・ヴィッセル神戸戦でホーム&アウェー2試合合計3ゴールを叩き込み、『高木俊幸、ここにあり』と高らかに宣言した。

 その躍進の影で、右足中指の痛みに苛まれていたことは誰も知らなかった。

「去年から痛みは感じていたんです。『ああ、たぶんそうだな』とは思っていた。19歳の時、今回の右足とは逆の左足で同じ箇所をケガした経験があったから。でもプレーしている時は、そんな事を考える暇もなかったから、ただ全力を尽くそうとは思っていました」

 身体的負担は、それを凌駕する情熱と忍耐で打ち消したはずだった。2015シーズンに清水エスパルスから浦和レッズに加入してから2年目。ようやく掴んだ先発の座を手放したくなかった。手応えを得たかった。チームに貢献できる選手になりたかった。

 激動の2016シーズンを終えた直後のオフ。自主トレーニングを兼ねて高校生とボールを蹴っていた時に激痛が走った。

「シーズンが終わって、オフに入って、右足の痛みのことを忘れていた頃に起こってしまった」

 診断の結果は右足第5中足骨疲労骨折。すぐに手術が行われ、全治3か月と所見された。

 プロサッカー選手にとってシーズンイン直後の強化キャンプは最も重要な場だ。1年間を戦い抜く体力を積み上げ、長い共同生活の中で監督、コーチ、チームメイトらと密接にコミュニケーションを取って結束を確認する。キャンプは団体競技の礎を築く儀式であり、鍛錬の学び舎でもある。この場に、2017シーズンの高木は加われなかった。

「キャンプに参加できなかったことは正直焦りになりました。キャンプは1年を通して戦うための身体作りの場だから、自分には、その分の遅れが絶対にある。ましてやリハビリ期間中は片足を使えなかったから、筋肉も相当落ちている」

 足の中指はデリケートな部位で、地面に足を付けただけで患部に衝撃が走って治癒が遅れる。だから手術後からの約1か月間は松葉杖を付いて過ごした。激変した生活の中で、それでも彼は自らに言い聞かせるようにして来るべき時を待った。

「幸い……、幸いじゃないか(笑)。でも自分は逆足も同じケガをしたことがあって、何となくこんな感じで治るんだろうなとは想像できたんですよね。前は19歳の時に左足の指を疲労骨折。今回は6年経って右足。今回はボールを蹴る方の足だったから、以前と感覚はまた違うんですけどね。前回は軸足で、今回のほうが影響は少ないかなとか。別に、両足を疲労骨折して良いわけじゃないですけどね(笑)」

 辛苦を乗り越えたからこそ、今の彼は軽口を叩ける。リハビリを経て再びピッチへ立とうとする者は大抵、強靭な精神を宿すようになる。清廉な心と共に。

「ケガをした瞬間。手術をした時。松葉杖で過ごした1か月間。リハビリ。この3か月間は……、少し長かったかな」

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