【無料記事】福田正博-「負けないよ」の本当の意味(2011/3/29)
僕が、2002年の名古屋戦のヒーローインタビューで発した「負けないよ」という言葉は、その後色々な解釈がなされたみたいだ。(参考動画→コチラ)
日本シリーズで近鉄の選手が巨人に3連勝した後に、相手を馬鹿にしたような発言をしたことがあって※、それと同じだったという人がいるんだけど、全く別のものだと思っている。彼は相手をリスペクトしていなかった。でも僕の発言は、相手を馬鹿にするような意味は持っていない。「負けないよ」という言葉は単純に「そうそう簡単は負けないよ」という意味なんだ。結果として、その後の試合を0-1で負け続けていったという事実はあるんだけど、あの言葉によって、そうした結果になったかという繋がりは別だと思う。相手にその言葉でモチベーションをもたらしたわけでもないし、相手も違うわけだからね。
※近鉄と巨人が対戦した1989年の日本シリーズで、近鉄は3連勝で日本一に王手をかけた。近鉄の選手がヒーローインタビューで「四球さえ出さなければ打たれそうな気がしなかったので、(巨人は)大したことなかったですね。シーズン中の方がよっぽどしんどかったですからね、相手も強いし。」などと発言。それを機に巨人の選手が発奮して、近鉄は4連敗してしまい、日本一を逃した。(参考動画→コチラ)
今思うと、あの場面で良くなかったなと思うのは、テレビ埼玉のインタビュアー(大西友子さん)に聞かれたこととは全く違うことを答えていて、しかも勝手に答えて勝手にインタビューを締めて終えたということ。今、メディアでの仕事もしている僕の立場からすると、謝れるなら謝りたい。本当に申し訳ないことをしたと思う。以前、テレビ局のアナウンサーと話をした時に、インタビューを受ける人はふたつのパターンがあって、聞いたことと全く違う、自分の言いたいことだけを答える人と、聞いたことをしっかり答えてくれる人がいると。僕はその両方のパターンだと思うんだけど、あの時に関して言うと、自分の思ったことだけを言って終わる感じだった。
ただ、インタビューで何を話すか考えていたわけではない。自分はインタビューの時に考えて何かを言うタイプではないので、試合が終わったばかりだったし、常に自分の中にある感覚を言葉として発していた。だからこそ、その言葉が逆にみんなの耳に残っているんじゃないだろうか。その場で考えた上で発せられる言葉というのは残らない。感覚的な言葉の方が心に響くんだよね。そして短い言葉だからこそ、話題になるんだと思う。
「負けないよ」は、レッズに関わる多くの人たちがみんな覚えていてくれていて、笑いが起こったり、ある意味記憶に残る話のタネになっていると思う。だからこそ、この言葉を発した僕の本心を理解してくれて、また引き続き話をしてくれると楽しいかなと思う。あのヒーローインタビューを受けた名古屋戦は劇的な試合だったんだよね。終了間際に僕が同点ゴールを決め、その後エメルソンがVゴールを決めて勝利した。そして実は、埼スタで僕が点を取ったのはあの試合だけで、プロのサッカー選手として、生涯最後のゴールでもあったんだ。ちなみに、僕の最初のゴールはカシマスタジアムで、点を取って喜んでいるうちに点を取られてしまったという、あのゴールなんだ。「負けないよ」の話をするなら、この最初のゴールの話もしてもらいたい。僕にはちゃんとそういうオチがついているんだ。これはすごいこと(笑)。本当に浦和を好きな人はそこまで語って欲しい。あいつは”持っている”と。最近、本田圭佑が”持っている”ということで話題になっているけれども、あいつよりもよっぽど、僕のほうが持っている(笑)。僕は、カシマでの最初のゴール※で、みんなにルールを教えたんだよ。サッカーをやっている人の多くは、あのルールを知らなかったんだ。僕もあれでルールを知ったんだから(笑)。
※1993年6月9日のカシマサッカースタジアムでの鹿島アントラーズ戦でJリーグでの自身初ゴールとなる先制ゴールを決めたが、GK土田尚史以外の全選手が福田に集まってベンチ前で祝福している間にプレーが再開され、わずか8秒で相手FWの黒崎比差支に同点ゴールを許した。なお、ルールではキックオフは全ての選手が自陣にいる状態で行うことになっているので、敵陣のエリアで祝福していれば、遅延行為で警告を受ける可能性はあるにしろプレーが再開されることは絶対にないが、この時は、浦和のベンチが自陣側にあったため、プレー再開がルール上可能になっていた。(参考動画→コチラ)
「負けないよ」という発言には、そういう意味合いがある。多くの人に伝わるメッセージとなる言葉を、選手達には発していって欲しい。ただ、相手があってのスポーツだから、相手をリスペクトした上での言葉でなければいけない。そこは絶対に外してはいけない。自分が、どのようにしてスポーツをプレー出来ているのかを理解しておくことは、すごく重要なこと。少なくともサッカーは、相手がいなければ試合ができない。相手の選手がいないと、スポンサーがいないと、サポーターがいないと、プロのリーグが成立しないんだということを理解しておかなければならない。その上で、相手を尊重したコメントができるように考えていれば、そういう言葉は自然と出てくると思う。これはJリーグの新人研修でも話したんだけど、そこを理解しておかないと、とんでもない発言をする可能性が出てきてしまう。一時的に笑いが起きるコメントをしても、言葉が残らない。言葉が残らないのは、間違っているから。受けを取るために発言するのは構わないけど、自分を取り巻く全ての状況を分かった上でコメントしないといけない。僕もあの時は、インタビュアーのことを理解していなかった。それは反省する。ただ、相手のことを僕は馬鹿にしていないからね。そこは非常に重要だと思う。
あと、以前清尾さんに、サポーターと「一緒に戦おう」という言葉を使ったのは、福田さんが一番最初ですと言われた。一番かどうかはわからないけど、大宮サッカー場で発した言葉が源になっていると思う。それも考えた言葉ではなくて、自然と出てきた言葉だから、清尾さんも覚えていてくれたんだと思う。その時の感情を素直に表現するのが重要。そのためにはスポーツの状況を理解しておくということだね。その前提がないと間違った発信をしてしまう。
例えば、テレビでもリハーサルばかりをしているとダメなんだよ。準備はある程度しておいた方がいいんだけど、準備をし過ぎると、言葉に勢いがなくなってしまう。淡々と話すアナウンサーのようになってしまう。だから、僕はあまりリハーサルをしたがらない。FWだからテレビの世界でも出たとこ勝負で、当たり外れがあるんだ(笑)。
ただ、自分の言葉で話すことは重要だと思う。選手も新人研修で「応援してください」とか同じような言葉を使うなと言われるらしいんだけど、自分の気持ちで言葉を伝えるというトレーニングは必要かもしれないね。それが一番相手の心に響くから、自分の言葉で話をすることは重要だと思う。
おしゃべりは上手いけど、話は下手だという日本人は多い。感情的に何かを言うのではなくて論理的に色々と話が出来ないとダメなんじゃないかな。何を言っているかを伝える方法がうまくないといけない。それがコミュニケーション能力だろうね。主語を使わないのが日本語の特徴の一つだから、何を話しているかを自分では理解しているけれども、相手が理解できていないことがある。サッカーの現場でも、論理的に物事を考える思考が重要だと言われていて、その教育が継続されているのも事実。自分の気持を言葉で表現する、そして相手に自分の考え方を理解してもらうため、表現能力を身につけることはプロの選手においては重要なことだ。
欧米とは違って、日本では全てを言い過ぎると日本人の心には響かないところがある。だから、「これからは負けませんよ」というより「負けないよ」と言ったほうがいい。昔、小泉元首相が発した「感動した」という言葉の方が最後まで残ったりするのは、キャッチな言葉を日本の文化は求めるからだろう。そういうことも理解して発言をするのは、とても重要なことだと思う。
「負けないよ」のヒーローインタビューを行った大西友子さんからも特別にメッセージを頂きました。
前略 福田様。謝りたいなんて言わないで下さい!J史上に残る名言が生まれたあの瞬間、マイクを握っていられたことに感謝しています。
福田さんの正に「感覚的な」あの言葉は他のどんな言葉にも変えられないまっすぐな気持ちでした。そしてサポーターも同じ想いだったからこそこうして語り継がれているのではないかと思います。
あの場で生じてしまったちぐはぐさは一重に私の経験不足によるものでした。当時サッカーのリポーターを初めて半年、今以上に未熟でありました。今度あのVTRを再生するときには是非私の質問をカットしてご覧下さい。福田選手、完璧です!
ちなみに。当時私もいくつかお叱りを受けましたし、もちろん反省しましたので(まだしています)テレビ埼玉のプロデューサーに謝りましたが、こう言われました。
「なんで?福さんが一番言いたいことが聞けたんだから大成功じゃない。お前が恥かいたのがなんだっていうんだ」。本当に、そう思います。
早々
大西 友子
大西友子さんのブログ→「大西友子でございます」