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★無料記事【西部謙司特別コラム】セルビア、ベラルーシに連敗。問題は日本代表の対応力にあり

厳しい連敗

 セルビアに続いてベラルーシにも敗れました。欧州中堅国に連敗という結果は、W杯のグループリーグ突破が厳しいことを意味します。さて、この現実を受けて11月の欧州遠征にどう臨むか。

 これがクラブチームなら、メンバーも限られていますしブレないことが大事だと思うんですよ。メンバーや戦術を大きく変えても、むしろ逆効果になりかねない。ただ、代表チームの場合は使える選手の幅は全然違います。極端にいえば、全部入れ替えてしまってもそれなりのレベルのチームにはなるでしょう。それで現在のチームより強くなるかどうかは疑問ですけど。

 いずれにしても何らかの手は打たなければいけません。メンバーもやり方も継続しながら苦い経験を生かしていくのか、あるいは部分的に選手を入れ替えて補修するか。それとも従来とは違う考え方で選考をし直して、新しいチームをイチから始めるのか。

 その前に、ベラルーシ戦を振り返ってみましょう。

中盤のスペースを消されたときにどうするか

 セルビア戦では相手が引いたためにボールは握れましたが、崩しの回数が少ないし得点もとれないという試合でした。一方、ベラルーシは前からプレスしてディフェンスラインを高い位置に押し上げ、中盤のスペースを消す守備をしてきました。前へボールをつなげないという、セルビア戦とは別の状況だったわけです。

 ところが、日本の攻め方はどちらの試合も同じようにしか見えませんでした。後方でパスを回しながら本田、香川へのクサビを入れようとするのですが、スペースが限定されているのでなかなかつなげない。4バックとボランチで回しながら、今野や吉田をフリーにして前へ入れようとするのですが、バイタルエリアそのものが狭いので入れるのが難しかった。

 まあ、日本がボールを支配する時間は長いので、後半になれば相手がバテてきてスペースも空いてくるという流れにはなります。ただ、できれば意図的に自分たちのリズムに持っていく工夫がほしかったですね。

 前半の途中から、本田がボランチの位置まで引いてくるようになりました。前にいてもボールが出てこないので、何とか状況を変えようとしたんでしょう。横浜Fマリノスでは、中村俊輔がよくこの手を使っています。ディフェンスラインの近くまで引いて数的優位を作り、相手を釣り出すか、前からプレスしても奪えない状況を作るわけです。ただし、本田が引いてしまえば前のターゲットは減ってしまいますから、後ろで時間を作って前へ人を送らないと成立しません。

 簡単にいえば、中盤のスペースがないということは裏にはスペースがあるわけです。無理に狭い中盤へつなぐよりも、いったん裏へ蹴って相手のラインを下げればいい。トップ下が引いてくるのも一つの方法ではありますが、まずは単純にロングボールを使ってもよかったのではないかと思いました。

 裏でなくてもいいです。例えば、吉田から逆サイドの香川へ斜めのロングパスを出す。香川へ通ればベラルーシのディフェンスラインまでボールが進みますから、そこからつなげばラインは下がります。そこから日本の距離感とリズムに持っていけばいいわけで。方法はいろいろありますが、ラインを下げさせようという意図があんまり感じられなかったですね。

アーセナルvsバルセロナの例

 中盤を圧縮されてつなぐスペースがない。そのときの対応例として、2010-11シーズンのUEFAチャンピオンズリーグのラウンド16・アーセナルvsバルセロナを挙げたいと思います。この第1レグではアーセナルが2-1で勝っています。

 バルセロナに対しては深く引いて守るチームが大半だった中で、アーセナルは中盤を圧縮してきました。当時、これをやった最初のチームだったと記憶しています。バルサも最初は戸惑っているようでした。いつものように押し込んで、バイタルへつないで、という展開にならなかった。結果的に、この戸惑っていた時間帯があったぶんアーセナルが勝てたのかなという試合でしたが、ゲームの途中でバルセロナは対応策を見出していました。第2レグは3-1でバルセロナがアーセナルを破って次のラウンドへ進んでいます。

 バルセロナの対策は、3メートルぐらいの短いパスを繰り返すことでした。アーセナルはセンターサークルあたりからFWがプレスして、その後ろにコンパクトなブロックを敷いていたのですが、バルサはそのほんの少し手前で執ように短いパスのやり取りを繰り返したんです。引いてきたシャビやメッシに3~5メートルのパスを出して、受けた選手はワンタッチで戻す。それだけ。ところが、これをやられるとアーセナルの選手はノッキングを起こしてしまった。プレスに行きかけて止まる、これの繰り返しになって、そのうちに全体の動きが止まってしまった。ラインコントロールが止まったのを見計らうように、バルサはラインの裏へボールを落とします。ラインの駆け引きがなくなっているので、FWがオフサイドにならずに裏へ走ってボールを拾えるようになりました。いったん下げさせてしまえば、あとはバルサのいつものやり方でプレーできます。

 日本はバルセロナではありませんから、同じことができるかどうかはわかりません。ただ、日本がある程度ボールを握れる試合の場合、相手は引いて守るか、中盤を圧縮するか、だいたいそのどちらかです。セルビアは引き、ベラルーシは前へ出た。で、日本はどっちの試合でも困っていた。どちらも圧倒されて負けたわけではない。日本の対応力が低いために、難しい試合になってしまったのだと思います。

継続か改造か

 次は11月のオランダ戦、その直後にたぶんベルギーとやるのでしょう。この2チームはコンフェデ杯で対戦したのと同等の強豪です。セルビアやベラルーシとは違う試合になります。このレベルの相手にはコンフェデ杯のブラジル、イタリア、メキシコに続いてウルグアイと戦っていずれも負けています。失点の多さが課題でした。ベスト16の関門となるガーナ、セルビア、ベラルーシには1勝2敗。

 今遠征の連敗は、これまでとは違う課題も浮き彫りになっています。試合の駆け引きなどの問題をクリアすれば勝てない相手ではないでしょうが、欧州中堅国に守られると点が取れない現実をつきつけられました。

 ザッケローニ監督は就任以来、ほとんどメンバーを変えていません。メンバーをある程度固定しながら一つのチームを作りました。しかし、そのチームが停滞していて伸びしろもそんなに期待できそうにない。

 今回は香川の不調がかなり影響したと思います。日本の攻撃は左に人数をかけて突破し、右から入ってきた選手が決めるという形があります。その中で左サイドの香川が本調子でないのは痛かった。香川のコンディションが戻り、いくつかの課題を修正すれば調子も上向いてくるかもしれません。メンバーを大幅に変えれば、これまでの長所も失ってしまう。このまま課題を修正しながら粘り強く進む道もありだと思います。

 しかし結果から判断すれば、ここである程度メンバーを変えるのはむしろ当然でしょう。雰囲気を変えるためにも刺激が必要かと思います。とくに南アフリカW杯のように守備重視の戦術に切り替えるなら、かなり選手を入れ替えないと難しいでしょう。

 ザッケローニ監督のこれまでの言動からすると大幅な変更はないと思われますが、次のオランダは微修正でどうにかなる相手ではありません。オランダ戦は、相手のボールを奪う力を問われます。そのためにどんな手を打つのか注目されます。
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