「柏フットボールジャーナル」鈴木潤

【レビュー】 天皇杯2回戦岡山ネクスト戦「新システムの狙いとは?」

3バックは変わらないが、3ボランチ気味の中盤にはアンカーに大谷秀和、右に茨田陽生、左に狩野健太、そして2トップに工藤壮人とレアンドロを置く新システムを、この天皇杯2回戦で使ってきた。相手がJFLとはいえ、番狂わせも珍しくはない天皇杯の初戦だ。不意な事故を起こしてしまっては意味がない。だからこそ、3-4-2-1でスタートして、その後は新システムを試すのではないかという予想はしていたが、見事に覆されてしまった。

ただ、裏を返せば、新システムが全く機能しなかったら3-4-2-1へ戻せばいいという自信や拠り所があるからこそ、テストに踏み切れたのだろう。

 

さて、この新システムだが、先日の順天堂大学との練習試合で初めて試した布陣である。

つまり導入してからわずか1週間程度。したがって、未熟な部分が多いのは承知のうえで、あえて公式戦で試したのだから、その成熟度に関しては、とやかく言うことはできない。むしろ、いきなりJ1のチーム相手に新システムを試すのはリスクが大きいから、岡山ネクストが相手となる天皇杯で試したと考えた方がよい。ネルシーニョ監督が「プランB」と言うとおり、いずれは3-4-2-1と3-5-2の2つのシステムを、試合状況や対戦相手によって柔軟に使い分けていくことになると思われるが、現時点ではあくまでも”テスト段階”だと見ている。

 

そういう状況なので、チームとしてボールを奪う位置、攻撃面ではパスをつなぐ時の味方のポジショニングが、これまでとは微妙に違ってくる。そこにイージーなミスも相まって前半の内容はやや不出来、岡山ネクストの鋭い出足に多少押され気味にあった。あのプレスをいなして、つないでいくだけの力を見せてほしかったというのが本音だが、次第に新システムのメリットをいくつか見出せたのも事実。そのメリットで一番目立ったのが、アンカーの前に位置する2列目の攻撃への絡み方である。

 

4月後半から茨田が攻撃の核となり、様々な彩りを加え始めたように、やはり茨田は前線と絡ませたい存在である。もちろん今回の天皇杯は岡山ネクストが相手ということもあったが、茨田が縦パスを入れ、リターンを受けてから自分がゴール前に跳び込む場面は、3-4-2-1のシステムではあまり見ることができなかった。

ここで肝となったのが工藤の存在。茨田から縦パスを引き出し、リターンのパスを落とす。これは本来2トップ双方に必要なことだが、レアンドロが神出鬼没に動き回っていたので、工藤が裏を狙ってしまうと、縦パスを受けられるターゲットマンがいなくなる。そうなると茨田はクサビの縦パスを入れられず、結局は横パスが増えるばかり。レアンドロが動き回るゆえ、その状況をを見た工藤は、「自分は今、何をしなければいけないか」と、戦況をしっかり把握してポスト役に徹し、茨田の前線に飛び出す推進力を誘発した。結果的に工藤はノーゴールに終わったが、「俺が俺が」とゴール前へ入ってばかりで攻撃を停滞させてしまうのではなく、逆にリズムや流れを作るうえでの貢献度は非常に高かったと思う。

 

前半終了間際のレアンドロのゴールは、茨田が突進からのシュートをGKに阻まれ、そのこぼれをボレーで決めたもの。チームの3点目は、ハン・グギョンが入ったことで1列上がった大谷が、レアンドロの落としを受けて放ったシュートがネットを揺らした。こういう2列目の選手が前線と絡んで攻撃を構築という部分は、間違いなくネルシーニョ監督が狙った形であり、移籍した田中順也の穴をチームとしてどう埋めていくかといった意図があったに違いない。

 

公式戦で新システムを使えたこと、その中で形というものを何度か作れたことは良かった点だが、全体的な成熟度はJ1の試合で使うにはまだまだ物足りない。味方選手の位置がちょっと変わったせいか、つまらないパスミスも多く、今回の試合では3バックが個の力で封じはしたが、あのようなミスを繰り返してはJ1クラスの相手では命取りになる。当面は、3-4-2-1をメインに戦っていくのだと思うのだが……。

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