「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

息づいていた三十年の伝統/【レビュー】明治安田J1第27節 横浜Fマリノス対鹿島アントラーズ

 前節の決勝点が「これぞ上田綺世」というものだったとしたら、今回の勝ち方は「これぞ鹿島」と言わざるをえない。守備からサッカーを構築してきた30年の伝統は伊達ではない。

 守るときは割り切って守る戦い方を鹿島は伝統的に続けてきた。いつの時代でも強いチームはその戦い方を身につけてきた。しかし、小笠原満男が引退して以降、この戦い方を実践できた試合は記憶にない。近年、むしろ守備はもろく、割り切って戦おうにもゴールを守り切ることはできなかった。

 伝統とは不思議なものだ。サッカークラブに息づく空気感は、自然と選手たちを形作っていくのだろう。誰に言われるまでもなく、選手たちは一体感を高め、互いをカバーし合う戦い方を身につけていた。鹿島11年目の土居聖真、6年目の三竿健斗以外、先発した11人のほとんどは昨季から主力になった選手ばかりだ。犬飼智也でさえ主力になって3年目。沖悠哉、常本佳吾、永戸勝也、町田浩樹、ディエゴ・ピトゥカ、荒木遼太郎、和泉竜司、上田綺世。8人は昨季、もしくは今季から鹿島を背負うようになった“若い”選手たちである。

 それでも鹿島の伝統芸を、寸分の狂いなく演じてみせた。

 どのクラブでもこの戦い方を指示することはできるだろう。しかし、指示を最後まで遂行できるとは思えない。誰でも攻められれば怖い。ボールを握られれば辛い。もっとボールを握って欲しい。このままだとやられかねない。そうした疑念が少しずつ歯車を狂わせていくからだ。

 ボール支配率68:32、シュート数8:4、パス数778:274。

 ホームチームが圧倒的な数字を残しても意に介さず、勝負を分けるゴール数だけに目を向ける。

 ゴール数0:2。

 鹿島にしかできない形で、またも横浜FMの撃破に成功した。

 

 

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