【無料公開】シンポジウム「秋田の未来に必要なスタジアムとは? 〜北米スタジアム視察と日本におけるスタジアムの現状〜」議事録
秋田の新スタジアム建設に向けて知見を深めるシンポジウム「秋田の未来に必要なスタジアムとは? 〜北米スタジアム視察と日本におけるスタジアムの現状〜」が11月15日、ANAクラウンプラザホテル秋田で開かれました。
小原爽子さん(日本経済研究所)、土屋光輝さん(KPMGコンサルティング)、永廣正邦さん(梓設計)をパネリストに招き、ブラウブリッツ秋田の岩瀬浩介社長がファシリテーターを務め、国内外の事例を紹介しつつ、秋田の新スタジアムのあり方を模索していくような内容。スタジアムに関する現状を知る機会になればと、その議事録を掲載します。
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会の冒頭、1月に発生した能登半島地震で亡くなった桂田隆行さん(日本政策投資銀行)に黙祷が捧げられました。
桂田さんは2018年に開かれた『「スポーツモールAKITA」を核とした街づくり構想協議会』に参加するなど、秋田の新スタジアム整備に尽力された方です。
●ブラウブリッツ秋田 第1回『「スポーツモールAKITA」を核とした街づくり構想協議会』議事録
https://blaublitz.jp/wp-content/uploads/sportsmallAKITA_20180220.pdf
●SPORTS BUSINESS ONLINE スポーツ産業を測る─㉙ 能登半島地震
https://sportsbusiness.online/2024/04/04/sportsbusiness-29/
●朝日新聞 能登地震が奪った異才バンカー「スポーツ分野に10~15年の損失」
https://www.asahi.com/articles/ASS2N5RQ0S2HULFA01C.html
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国内のスポーツ産業の成長とその価値の変化について
※パネリストやファシリテーターがスライドを参照しながら説明している箇所があります。ご留意ください。
岩瀬社長:いま、国自体が国内のスポーツ産業をどう捉えているのかといった部分を小原さんからお話をいただければと思います。
小原さん:国のほうでスポーツの成長産業化といった内容、スタジアム・アリーナ改革といった内容が、2016年の「日本再興戦略」を皮切りに、重要戦略になってきたかなと思います。きっかけとしては、わが国のスポーツ産業市場の規模拡大の可能性というところで、当初5.5兆円が15兆円に拡大していったような。その裏には海外とわが国のスポーツ産業の規模格差というのが身に染みて感じられてきたっていうのがあったかなと思います。
後ほどご紹介あるかもしれませんが、各プロリーグでも産業規模、経済規模の格差がどんどん生まれてしてしまっています。もうひとつ、スポーツが地域社会や多様な産業に幅広い効果が期待できるにも関わらず活用しきれていないなという思いが非常に国のほうにもあったかなと思います。
たとえばスポーツと観光。スポーツと健康。スポーツとエンタメ。スポーツと飲食、スポーツと医療。スポーツっていうのはすごく面白い産業で、どんな産業ともつながれるっていう、非常に使い勝手のある産業だと思うんですね。特にプロリーグ、プロチームのようなスポーツコンテンツはどこにでもつながれると思っています。そういったところが活用しきれていないなという思いがあったかなと思います。
一方で各プロリーグの基準。スタジアム、アリーナ基準というものを上げていって、もっと経済規模を大きくしていこうというような動きもありまして、各種スポーツ施設のニーズ、施設を建て替えて新設しようというニーズがあったかなと。どんどんそういった具体例が出てきそうだなというところもあって、国の方でも少しずつ成長産業化していったところがあります。
皮切りに申し上げたのは、「日本再興戦略2016」というところで、官民戦略の中にスポーツの成長産業化というのが盛り込まれて、ここにいくつかありますけれども。その中のひとつとして「スタジアム・アリーナ改革」 〜コストセンターからプロフィットセンターへ〜 という題目で。もう次々とやっていくんですね。ここでは「未来投資戦略2017」で、地域経済好循環システムの構築というところでもスポーツが取り上げられていて、2025年までに新たに20拠点を実現するんですが、これはいままである体育施設的なものではない。多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナというもののKPIも打ち出していく。ちなみにこの20拠点を実現するための選定作業というのを、弊社がスポーツ庁さまのお手伝いをさせていただいております。
2025年までに20拠点、実は2024年が今年なんですけれども。昨年までに17拠点選ばれています。あと2年で3拠点出るかなというところなんですが。これまでのペースですと、この20拠点というのは達成できるんじゃないかなというところです。
それ以外にも翌年の2018年に「未来都市宣言」。あとは「成長戦略フォローアップ」というものでもスポーツを核とした地域活性化というものが謳われていたり。あるいは「まち・ひと・しごと創生法」のほうでも教育・スポーツの記述がたくさん出てきます。アクションプランというものでも、実際にPPP/PFIの手法でたくさんスタジアム・アリーナを作っていきましょうというような動きが大きくなっています。
岩瀬社長:仕事が終わらないんですよ。われわれクラブって。というのも、先ほどの観光であったり健康であったりエンタメだったり医療であったり教育、飲食といった部分で。県議会でたしか、秋田県の少子高齢化に対して六部会の提言っていうのが昔あったと思います。そこで出てた6つの部会っていうのはまさにこの観光、交通、エネルギー、健康、医療、福祉、教育だとか。まさにここにハマってるんですね。なので私自身も本当にいろんなことを描いているんですけども。どんどん秋田の皆さんにはわれわれをうまく活用していただきたいなと思っています。
いま、それこそ新県立体育館・アリーナの整備が進むといった部分と、こうして秋田には新スタジアムに向けての整備のお話が長く議論をされておりますけれども。ある意味、国自体がこうして成長戦略のひとつとしてスポーツを挙げているということは、ある意味秋田にとってはものすごいチャンスがあるんではないかなと思っているところでございます。
冒頭、小原さんの方から市場が遅れてしまったよねっていうところを、あるちょっとデータ引っ張ってきたんですけど。こちらご覧いただきたいんですけども。皆さんから見て左手ですね。これがプロ野球市場の規模の推移といったデータで、ちょっと古いデータなんですけども。プロ野球の方が2010年、もともとMLBメジャーリーグとほぼ変わらない市場規模だったにも関わらず、この10年20年で大きな差がついてしまったというのが現実でございます。Jリーグを見ても同じような形ですね。Jリーグの市場、2017年から一気に伸びてはいるものの、実はまだまだプレミアリーグと比べれば全然成長といった部分に対しては追いついていけてないというところでございますが。
土屋さん、この辺の成長に追いつけなかったというか乗れなかったこの背景みたいなもの。それとあと最近の動向みたいなものをちょっとお話いただきたいと思うんですけどいかがでしょうか。
土屋さん:これだけ見ると、もしかするともう日本は伸びしろがないんじゃないかって思われる方がいるかもしれないですけど。そんなことはないかなと思ってます。若干、日本のプロスポーツというかスポーツビジネスの背景に、もともと体育とか企業の福利厚生とかそういったバックグラウンドがあるということは否めないところはあるんですけれども。
ただ、まだ差が大きく出てるのはどれだけの人が見るかといったところの量がポイントになってくるのかなと思ってます。メジャーリーグの大谷翔平選手の試合を見たりとか、それとプロ野球見て比較すると、「コンテンツ力が」みたいに思われる方もいらっしゃるかなと思うんですけども。
事例としてというか、例として挙げさせていただこうと思うんですけど。アメリカで実は大学のバスケってMarch Madnessっていうふうに言われて「狂った3月」って言われたりするんですけど。大学のバスケ、カレッジバスケットボールで、観客が80万人ぐらいいるというところで。収益が1,000億以上稼いでるというような大学スポーツがあるんですけども。
実は同じようなカレッジスポーツ。日本にも同じような観客、視聴率を出しているスポーツが実はあるんですけれども。何だと思われますか? 甲子園、まさになんですけど。実は甲子園の市場規模ってどのくらいだと思われますか? さっきのアメリカのカレッジバスケットボールが1,000億以上になってるんですけど、実は高校野球って12億円ぐらいしかないんですね。これってまだまだスポーツビジネスの伸びしろがあることのひとつの例かなと思うんですけど。同じように観客数だったり視聴率を叩き出しているのにも関わらず、これをビジネス化できてないっていうところがひとつポイントなのかなと。
収益に差が大きく出る要因としては放映権の部分。このあたりも最近は地上波だけではなくていろんな、YouTubeだったりNetflixだったりいろいろ視聴できますけれども。そういったところも含めて放映権の話だったり、スポンサー収益でも新しいスタジアムを作ると新しいネットワークになって新しいスポンサー収入、あとチケット収入でも最近はスタジアムでもいろんな多種多様な種類のVIPだったり、バーベキューができたりするようなチケットだったり。そういったチケットの多様化、バラエティーみたいなところの中でチケット収入をどう伸ばしていくか、こういった3つの収益のところで大きく差が出てるというようなことも考えられるということで。
そのひとつの要因として、新しくスタジアムを作って、こういったところを伸ばしていくというのも考えられるかと思います。あと皆さんスポーツビジネスと捉えたときに、どういった範囲というか、どういったことを思い浮かべますでしょうか。単なるスポーツ興行をするというだけではなく、スポーツビジネスって実は先ほどの成長産業化の話に出ていた通り、すごく幅広く捉えていただければなと思ってます。
もちろんスポーツそのものを売る、興行ベースとして先ほどのチケット収入、放映権だったりの収益ももちろんあるんですけれども。最近はそのスポーツコンテンツをさらにいろんな人に見てもらうとか、その中でDX、いろんなデジタルを活用したり。またはその外側、いろんな健康とか観光とか教育とか、いろんな他産業とコラボレーションすることでスポーツビジネスを拡張していこうというようなことも考えてます。
そういった意味でスポーツビジネスの成長産業化というのは、もちろんスポーツそのものを売っているということもあるんですけども 。スポーツを通じて他産業への染み出しっていうところも含めて拡張していこうっていうところがいまの流れかなと思ってます。そのあたりが特にアメリカで目立っているかなという印象があります。
岩瀬社長:どうしても日本の場合ですと、何かもの作りだったり何かをやるときに点で終わらせてしまうっていう部分がすごくあるのかなと。点ではなく、いろんな方々とともに、一緒になって取り組むっていったこういったリンク付けっていうのは非常に大事かなと感じております。
ちょっとJリーグについて私からご説明させていただきます。先ほど成長といった部分がありましたけれども。Jリーグ、実は非常にいまぐんぐんぐんぐん伸びております。特に上の収益推移見ていただきたいと思います。これがリーグの収益推移という形にはなります。DAZNって皆さんご存知ですよね。放映権が入ってと。純利益2,100億円という金額が入ってこういった形で伸びております。またJクラブの収益推移、これが下のグラフでございます。見ていただきたいのは黒い横棒ですね。折れ線グラフがJ2の平均値を表した収益という形になります。昨シーズンで申しますとJ2はいま、20億円、前年17億、前前年が15億という形で、ものすごい勢いとスピードで成長しているなと。
ただひとつ裏の背景で言いますと、やはりJ1からビッグクラブが落ちてくるといったところで。たとえば清水エスパルスが落ちてきたと。清水エスパルス、事業収益で言うと、去年は55億使ったってお話を聞いてます。ちなみにブラウブリッツ秋田、10億円までおかげ様で成長しております。10億円で今回、収益という形で本当にキリいいとか思わないでいただきたいなと思いますけども。こういった形でいま、Jリーグも成長の一歩をたどっているというものでございます。
先ほどから申し上げてる通り、日米のスポーツ産業の比較といった部分、2013年でもこういった形で。水色のところ見ていただきたいんですけど。ここでちょっとお話したいのが、アメリカの自動車産業を、アメリカのスポーツ産業が超えているというような状況でございます。こう見ると私はある意味、いま、秋田県もエネルギーの産業ですとかいろんな形で成長戦略取っておりますけども。ハピネッツさんがいて、そしてブラウブリッツがいて、ラグビーもありますし、アランマーレさんもありますといった部分で言うと、ある意味、財産がたくさんあるんではないかなと感じております。なので、秋田で考えても成長戦略のひとつとしてこのスポーツ産業という捉え方もしていいんではないかなと思っています。